物質・材料研究機構(NIMS)元素戦略磁性材料研究拠点フェローの宝野和博氏らのグループは,希少金属のジスプロシウムを一切使用しないで,ジスプロシウムを4%含む焼結磁石と同等の保磁力と同等以上の最大エネルギー積をもつネオジム磁石を開発した。
近年ハイブリッド自動車用モータの用途でネオジム磁石の使用量が急増しており,そこには耐熱性に効果のあるジスプロシウムが8%程度使われている。しかし,ジスプロシウムは希少金属(レアメタル)であり,その使用量の削減が求められている。
一方で,耐熱性の指標となる保磁力の向上には磁石を構成する結晶粒の微細化が効果があることが知られており,これによりネオジム磁石の耐熱性を高める研究が進められてきた。
この研究では,大同特殊鋼が提供した,従来の焼結磁石の20分の1程度の大きさの結晶からなる熱間加工ネオジム磁石に,低融点のNd70Cu30合金を650℃で溶かして結晶粒の間に浸透させ,連続的なネオジム銅(NdCu)合金層を形成した。これにより,熱間加工磁石の保磁力を1.40テスラ(T)から1.97Tまで高めたが,この方法では磁石の体積膨張を伴うため磁化が希薄化されて,磁力が下がってしまう。
そこでNdCu拡散浸透時の体積膨張を押さえるため,共晶拡散処理中に起こる体積膨張を拘束する冶具を用いて,磁石に浸透する非磁性合金の量の制御を試みた。その結果,室温で1.92Tもの高保磁力を実現すると同時に,残留磁化の減少を最小限に抑え室温で358kJ/m3の最大エネルギー積を維持した。
この膨張拘束拡散処理された熱間加工磁石は,従来の焼結磁石と比べて保磁力の温度依存性が低く,その結果,ジスプロシウムを一切用いずに,200℃の最大エネルギー積で190kJ/m3という,4%ジスプロシウムを含む焼結磁石よりも優れた値を達成した。今後は,室温で2.5T,200℃で0.8T程度の保磁力を有するネオジム磁石の開発を目指すとしている。
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