奈良先端科学技術大学院大学と理化学研究所、基礎生物学研究所らの研究グループは、コケ植物が、体内に水を運ぶ通り道の「通水細胞」と体を支えるための「支持細胞」という2種類の特殊な細胞を作る仕組みを明らかにした。また、この仕組みの中では、自己の細胞を死なせて(自己細胞死)残った細胞の構造を利用するシステムが重要であることを、実験的に世界で初めて証明した。
研究チームは、コケ植物の実験モデルとして世界的に広く用いられているヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)を使った研究を行なった。ヒメツリガネゴケは、8つのVNS遺伝子(PpVNS1~PpVNS8)を持っており、これらを操作した結果、ヒメツリガネゴケの通水細胞と支持細胞の形成はPpVNS遺伝子によって制御されていること、この制御システムが植物進化の早い段階(少なくともコケと維管束植物の共通祖先の段階)で既に確立されていたことが明らかになった。
これは原始的な植物で進化した体内の水を効率的に輸送する仕組みが、植物の水中から陸上への進出とその後の陸上での繁栄に必須であったという仮説を裏付けるもの。さらに、木質バイオマスを生み出す細胞である道管や繊維細胞が作られる仕組みが全陸上植物に共通していることが証明されたことから、この成果は木質バイオマスの増産にもつながると期待される。
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