慶大,導電性高分子中に磁気の流れを作り出すことに室温で初めて成功

慶應義塾大学理工学部物理情報工学科講師の安藤和也専任氏らは,電気を流すプラスチック「導電性高分子」の中で磁気の流れ「スピン流」を作り出すことに成功し,この性質を世界で初めて明らかにした。

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電子は電気と磁気両方の性質を併せ持っていおり,従来のエレクトロニクスが電気のみを利用してきたのに対し,磁気(スピン)の流れ「スピン流」を利用することで超低消費電力デバイスや量子コンピュータの実現が可能となるため,これまで金属や無機半導体といった材料でスピン流に関する膨大な研究が行なわれてきた。

しかし,フレキシブルかつ印刷が可能で更に安価であるといった特徴を持つ,次世代エレクトロニクス材料である導電性高分子中にスピン流を作り出すことは困難であり,その性質はほとんど理解されていなかった。

今回研究グループは,導電性高分子にスピン流を作り出すため,代表的な高移動度導電性高分子であるPoly(2,5-bis(3-hexadecylthiophen-2-yl)thieno[3,2-b]thiophene(PBTTT)をスピン流の注入素子(パーマロイ)とスピン流の検出素子(白金)で挟んだ三層構造を作製した。

この三層構造にマイクロ波を照射してスピン流の注入素子層で磁気共鳴を駆動することで導電性高分子中にスピン流を流し込み,導電性高分子中を流れたスピン流を検出するために白金層に生じる電圧を測定した。

さらに導電性高分子層の膜厚を変えたところ,この電圧信号の大きさが変化し,導電性高分子中のスピン流の減衰長が200㎚程度であることが明らかとなり,さらのこの温度依存性測定から電気伝導度との関係を調べることによってスピン流の減衰メカニズムを世界で初めて明らかにした。

この発見により,他の物質と比較して著しく長いスピン情報保持時間を示す有機材料の特長を利用した,次世代省エネルギー電子技術への大きな推進力となることが期待される。

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