東大,素粒子を用いてマグマの動きを透視活写することに成功

東京大学地震研究所教授の田中宏幸氏らは,素粒子を用いて噴火をしている火山内部のマグマの動きを透視活写し,噴火に伴うマグマの上昇・下降のレントゲン動画の撮影に世界で初めて成功した。

動画撮影には,火山の内部のマグマの動きを捉える検出器の信号対雑音比を100倍以上向上した,多層式ミュオグラフィ検出器の開発が鍵となった。新しく開発した検出器を用いて,2013年6月4日に噴火警報が発令された薩摩硫黄島内部のミュオグラフィ透視動画を撮影し,マグマ頭位の上昇と噴火が同期していることを確認した。

宇宙線に含まれる素粒子ミューオンを用いた固体地球のイメージング(ミュオグラフィ)は,1990年代に東京大学理学部で提案され,2006年に田中氏らが浅間山の透視を実現してから急速に発展してきた。山体内部に潜むマグマの形状を視覚的にとらえるいわゆるレントゲン写真撮影において数々の成果を上げてきたが,レントゲン動画として撮影するには,検出器の雑音レベルが高く,結果として時間分解能が低く,困難であった。

今回,田中氏らは雑音レベルを極限まで低減させるため,雑音となる放射線を選別・低減する多層式ミュオグラフィ検出器(カロリーメーター方式)の開発に成功した。検出器は6層の位置敏感検出器面とおよそ100放射長の厚みを持つ雑音遮蔽体(鉄,クロム及び鉛の混合体)から構成されており,粒子飛跡の再構築には検出器を直線的に通過した事象のみを取り出すアルゴリズムを採用。この検出器の開発により信号対雑音比が100倍以上向上した。

今回のレントゲン動画撮影の成功から,ミュオグラフィを用いてデータのリアルタイム動的処理によって火山内部を3次元で高速可視化することにより,火山噴火の新たな噴火モニタリングシステムへと進化する可能性を秘めていることが分かった。この結果を発展させることにより,火山浅部マグマの研究は大いに進み,火山科学のみならず固体地球科学に新たなパラダイムをもたらすことが期待される。

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