NIMS、災害時に人工透析が可能な高性能ファイバを開発

物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点生体機能材料ユニットMANA 研究者の荏原充宏氏、博士研究員の滑川亘希氏らは、血中の低分子尿毒素の一つであるクレアチニンを選択的に除去できる高性能ナノファイバメッシュを開発することに成功した。このナノファイバは、電気や水などのライフラインが寸断された災害時において、慢性腎不全患者を応急処置可能な携帯型“透析”システムの開発への道を開くもの。

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透析液を大量に使用する従来の透析治療では、電力、水、交通手段などのライフラインが寸断された緊急時には尿毒素を除去することは困難だった。そこで今回、ナノファイバの高い比表面積とゼオライトの尿毒素吸着能の2つの機能を合わせることで、血中尿毒素を選択的に除去できるナノファイバメッシュの開発に成功した。

開発したのは腕時計型のカートリッジに取り付け可能なメッシュ状の材料で、ゼオライトを含有した生体適合性高分子のナノファイバからなる不織布。使用したゼオライトは、尿毒素を選択的に吸着できる細孔と性質を有しており、一時間でヒトの体内に蓄積するクレアチニン量(約50 mg)を今回開発したファイバ25 gで除去することに成功した。ゼオライトの種類を変えてナノファイバを製膜することで、様々な種類の尿毒素除去が期待できる。

日本国内の慢性腎不全患者は30万人を超えており、年間約2兆円規模の医療費がかかっている。そして、ほとんどの患者は血液透析を始めとする血液浄化法により延命・社会復帰しているのが現状である。ライフラインや治療環境が寸断された場合、それが復旧されるまでの時間、腎不全患者の急性尿毒症を応急処置的に予防するためには、体内からの尿素およびクレアチニンと水の速やかな除去が不可欠。

今回は特に災害時医療の観点から研究を進めたが、今後は、年間12%の割合で透析患者が増えている発展途上国などのインフラが未整備な地域での使用も想定している。また、今回、尿毒素の一つであるクレアチニンをターゲットにした実験を行なったが、今後は、他の尿毒素や過剰水分の除去も含め、尿毒素を総合的に除去できるインフラが未整備な地域用のデバイス開発を進める予定。

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