東北大学電気通信研究所と高輝度光科学研究センター、東京大学大学院工学研究科、東北大学学際科学フロンティア研究センターは、大型放射光施設 SPring-8のBL17SU に設置されている光電子顕微鏡を用いて、実際のグラフェンを用いたトランジスタの動作に近い状態(ゲート電圧印加下)での、グラフェンの電子状態をナノスケールで調べた。
この実験により、具体的には下記二つの多体効果を調べた。
励起子効果:クーロン引力により結び付けられた電子と X 線照射により瞬間的に生成する内殻正孔のペアに働く相互作用
アンダーソン直交性崩壊:X 線照射により瞬間的に生成する内殻正孔により周りの電子の状態を かき乱す相互作用
この光電子顕微鏡による観察から、グラフェン中の電子は、多体効果を顕著に受けることが明らかとなり、しかも、その多体効果の大きさが、グラフェン・トランジスタの基本動作パラメータであるゲート電圧の値により変化することが明らかとなった。 この結果は、ゲート電圧印加により変調されるフェルミ準位により決まる荷電キャリア(電子もしくは正孔)密度により、多体効果の大きさが決定されることを意味する。
また分子軌道の性格により、この多体効果の受けやすさが異なることが明らかとなった
・グラフェン中の電気伝導に直接関わるπ軌道は、多体効果を受けやすい
・グラフェン中の炭素原子を結び付ける骨格であるσ軌道は、多体効果を受けにくい
さらには、グラフェンと電極間界面において、上記の多体効果を調べた結果、グラフェンと金属電極間に生じる電荷移動により、多体効果がこの界面近傍でナノスケールで変化していることが明らかとなった。
以上の結果から、グラフェン中電子は従来考えれていたような単純な振る舞いをするのではなく、ゲート電圧や金属極との界面により変調される電子の個数(フェルミ準位)や分子軌道の種類に依存する多体効果によって、その振る舞いが制御可能であることを明らかにした。この知見は、グラフェンを用いた光デバイスや高速電子デバイスの特性を最適化させる際に極めて有用なものとなる。
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