物質・材料研究機構(NIMS)の国際ナノアーキテクトニクス研究拠点フェローの板東義雄氏らの研究グループは、超極薄のグラフェン(単層もしくは数層)を、張り子のように3次元的な骨格に貼り付けた構造体を創製することに世界で始めて成功した。この合成法は、吹き飴技法から着想を得た「ケミカル風船法」とも言うべき独特な方法。
グラフェンは超極薄物質で、カーボンでありながら従来知られているグラファイトやダイヤモンド、カーボンナノチューブとも異なる特異な物性を示すことから注目を集めており、その発見者には2010年にノーベル物理学賞が贈られている。特異な物性のため、いろいろな応用が期待されている一方、その物質が極薄なため、機能を発揮させるための3次元構造体を作ることが容易ではなく、多くの研究者がグラフェンの3次元構造体化に挑戦してきたものの、特性を損なわずに3次元構造体を作ることには成功していなかった。
今回の研究では、これまで報告例のない斬新な手法、すなわち吹き飴技法に着想を得た「ケミカル風船法」を用いて、3次元グラフェン構造体の合成に世界で始めて成功した。この構造体は構造的に安定な細い骨格にグラフェンを貼り付けた提灯や張り子を思わせる構造をしている。
この手法では、グルコース(砂糖)と塩化アンモニウムを混ぜ、約250°Cで加熱すると溶融したグルコースポリマーが生成する。この際に発生したアンモニアガスがポリマーを内側から圧力をかけることで膨らませ、数十ミクロンサイズの小さな風船を多数発生させる。同時にまた、構造体を安定化するための骨格が形成され、3次元張り子構造が作り上げられる。張り子構造の形成後、さらに1350°Cの高温で加熱することで、張り子の皮に相当する部分をグラフェンに変化させる。「ケミカル風船法」は、短時間、簡便、かつ安価に3次元構造を持ったグラフェン構造体を合成できる画期的な手法。
この研究で合成された3次元張り子構造を持つグラフェン構造体を電極として用いたキャパシタは高い出力密度を示すことから、高性能なキャパシタ材料としてポータブル電子機器や電気自動車の急速充電・放電や航空機の電磁発射装置等への応用が期待される。また、今回開発した「ケミカル風船法」はグラフェン以外の超薄膜の新規な創製法としても広く利用することができる。
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