NTT,光子を用いた量子コンピュータのキーデバイスを創出

NTTは,光子パルスが光導波路中を進む速度が真空中の光速より大幅に遅くなる「スローライト」効果を用いて,光導波路上にオンチップで集積化した量子バッファを世界で初めて実現した。

量子コンピュータの構築のためには,量子ビット同士を相互作用させ,演算操作を行う「量子ゲート」が必要だが,その構成にあたっては単一光子の干渉に際して光子干渉回路への到着時刻が正確に一致する必要があるため,導波路上で光子の量子状態を保持しつつ一時的に蓄えることで,光子の到着時刻を調整し量子ゲート動作を達成する「量子バッファ」の実現が課題となっていた。

NTTは,シリコンフォトニック結晶技術を用いて作製した結合ナノ共振器中で,光子パルスがそのパルス形状を保ったまま真空中の光速より大幅に遅い速度で伝搬するスローライト効果を用いて,光子に対する量子バッファを実現。この量子バッファを用いて,以下の実験を実施した。

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① 2光子の発生時刻に相関のある量子相関光子対パルス(パルス幅20 ps)の一方の光子パルスを結合ナノ共振器中で伝搬させた後,2光子の時間相関を測定した。この結果,2光子が発生時刻の相関を保ったまま,一方が150 ps保持されたことを確認。

② 結合ナノ共振器の温度を変化させることにより,保持時間を50 psにわたり変化可能であることを実証。

③ 量子もつれ光子対の一方の光子を結合ナノ共振器中で伝搬させた後にも,2光子の間の量子もつれ状態が忠実に保持されることを確認。

これらの結果,結合ナノ共振器により光子パルスの伝搬速度を大幅に減速(真空中の光速の1/60程度)しつつ,光子の量子状態を忠実に保持することが出来た。これにより,この技術が光導波路上にオンチップで集積化した量子バッファとして適用可能であることを確認した。

量子バッファの実現により,多様な回路構成において光子の同期が容易になるため,集積化量子光回路の大規模化が可能となる。また,量子バッファの保持時間を変化させることにより,遂行したい量子計算タスクにあわせて回路を再構成可能な集積化量子光回路を実現でき,光子を基本素子とした量子コンピュータ実現に向けて大きな可能性が広がったと考えられる。

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