東京工業大学応用セラミックス研究所准教授の笹川崇男氏と英オックスフォード大学や米スタンフォード大学などの日英米共同研究チームは、革新的電子デバイス向けの新物質「”極性”トポロジカル絶縁体」を世界で初めて発見した。
表面だけ電子が超高速で動き回る特殊な絶縁体「トポロジカル絶縁体」は、従来の特性を凌ぐ機能や新たな機能を持った電子デバイスへの利用が期待されている。その理由の一つは、2010年ノーベル賞で話題のグラフェンと同様な「2次元に閉じ込められた質量ゼロの電子(=ディラック電子と呼ばれる)状態」を表面にもつことであり、その応用で超高速・低消費電力なCPUやメモリーなどが実現できると考えられている。
さらにグラフェンがまねできない優れた性質として①単層原子シートである必要がない②電子スピンも方向を揃えて伝導する③伝導状態が不純物で乱されない④磁性や超伝導との相互作用により革新的な電子機能につながる新奇量子状態が出現する―などの特筆すべき点も多々ある。そのため、2007年の理論予言以降、実用で使えるトポロジカル絶縁体の材料開発が世界中で活発に行なわれている。
これまでに実験で確認されたトポロジカル絶縁体は、すべて極性のない結晶構造をもっていた。これは、例えばABAの単位を繰り返して積層した構造で、ひっくり返しても同じ並び方になる(=空間反転対称性がある)結晶構造となっている。
一方で、今回発見された物質は、ABCを単位とする繰り返しのために、表と裏をもつ構造になっている。この場合には、それぞれの原子の電子を引き寄せる力の違いが単位構造の中で打ち消されず、磁石のNS極のように、層の上面と下面の両端に電荷の偏りをもつ極性構造になる。
今回発見された極性トポロジカル絶縁体を用いると、飛躍的にシンプルな構造でトポロジカル電子機能を活かした新原理のデバイスが開発できることになる。
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