北海道大学電子科学研究所教授の竹内繁樹氏、博士研究員の小野貴史氏らは,量子力学的にもつれあった光を用いて,世界で初めて,この限界を超えた感度をもつ「量子もつれ顕微鏡」を実現した。
光学顕微鏡のなかでも,微分干渉顕微鏡の深さ方向分解能や計測精度は,標準量子限界と呼ばれる,光の古典理論によって決まる信号雑音比で決まっている。その限界の下では,より高い深さの分解能や計測精度を得るためには,より強い光を当てるしか方法がない。しかし,強い光を照射すると,対象サンプルの損傷などの影響を与えるため,重大な問題となっていた。
研究グループは,量子力学的な相関を持った光子を用いる事で,標準量子限界を超えた位相測定が可能であるという原理検証実験に 2007 年に成功(Science)。この量子もつれ光子を微分干渉顕微鏡の照明光として利用することで,標準量子限界を突破することを発案した。
光量子コンピュータの研究で培った,良質な量子もつれ光子対源などの技術を用い,「量子もつれ顕微鏡」を世界で初めて実現。その顕微鏡を用い,ガラス基盤の表面に,原子 100個程度の厚みで浮き彫りされた「Q」という文字の観察を行った結果,通常の光を用いた観察(標準量子限界)に比べ,1.35 倍の信号雑音比を達成した。
今後,より多数の光子のもつれ状態を実現することで,微分干渉顕微鏡の「感度」を,標準量子限界を大きく超えていくことが可能となる。将来的には,生体細胞内部のわずかな物質分布の変化や,蛋白質結晶の結晶化過程の解明など,これまで感度が不足し観察・測定できなかったさまざまな課題への応用が期待される。また,現在急激に発展している,量子コンピュータに代表される量子情報技術の,より広範な分野への応用のさきがけでもある。
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