日立,カーボンナノチューブを探針に用いた近接場光学顕微鏡を開発 幅5㎚の金のパターンの画像化に成功

日立製作所は,カーボンナノチューブ(CNT)を探針(プローブ)に用いた近接場光学顕微鏡(NSOM:Near-field Scanning Optical Microscope)を開発し,波長850㎚のレーザ光を用いて,幅5㎚の金のパターンの画像化に成功した。開発したNSOMは,4㎚に尖らせたCNTの先端に近接場光を生成し,これを走査することによって物質表面から反射する光を分析・画像化する。

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細い針を移動させて物質表面の状態を調べる走査プローブ顕微鏡(SPM)は,走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)などが,すでに産業分野に応用されている。これらのSPMは,原理的に物質表面の凹凸は測定できるが,物質の組成やどのような分子構造であるかなどの分析はできない。

これに対して,プローブの先端から細い光を出し物質表面から反射する光の情報を分析するNSOMは,微小部分の組成や分子構造を知ることができる。また,大気中や液中で測定を行なえるため,生きている細胞などの計測に適している。一方,NSOMの最大の課題は,微小な光スポットを作り出すこと。例えば,人間の目に見える光の波長は約500㎚なので,数ナノメートルの対象物を観察するためには,これを数百分の一に絞る必要がある。今回,同社は,プローブにCNTを用いることで,数ナノメートルの大きさの金のパターンの画像化に成功した。

プローブには,磨耗しにくく,かつ先端を4㎚に尖らせた外径約20㎚の円筒状多層CNTを用い,金の薄い膜をコートしたシリコン製の三角錐チップの先端に固定する。さらに三角錐チップを,カンチレバーに固定する。カンチレバーの背面からレーザ光を照射すると三角錐チップの金薄膜中にプラズモンが発生し,このプラズモンによって,三角錐チップの先端に直径数百㎚の近接場光が生じる。

この第一の近接場光の電界がCNTプローブ先端に集中することにより,プローブ先端に先端径と同程度の4ナノメートルの第二の近接場光スポットが生じる。先端を尖らせた磨耗の少ないCNTを用いることで,極微細パターンの画像化と測定の再現性向上を実現するとともに,直径数百㎚という小さな近接場光で測定用の近接場光スポットを生成するので,余分な光による画質の劣化を軽減できる。

CNT プローブの先端に生じた近接場光スポットを測定用光スポットとして非接触で物質表面上を走査しながら,各走査点でプローブ先端と試料との間で散乱する光を検出することにより,近接場光画像を作る。今回,波長850㎚のレーザ光を用いて,幅5~30㎚の金のパターンを厚さ50㎚のSiO2層で挟みこんだ表面が平らな試料を観察したところ,幅5㎚の金パターンを材質の違いとしてSiO2から明瞭に分離して画像化でき,その分解能は3㎚以下となることを実証した。

光による計測は大気中あるいは液中で,物質にダメージを与えることなく組成や分子構造を測定できることから,今後,生体細胞や先端高機能材料のナノメートル単位の分析に道を拓く技術として期待される。

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