北大、ヒト多能性幹細胞についての倫理的および法的課題と規制の在り方に関する論考を発表

北海道大学安全衛生本部特任准教授の石井哲也氏らは、iPS細胞や ES細胞から得たヒト人工生殖細胞を用いた胚作製の是非を洞察。また、17か国のヒト胚作製研究の規制の内容,方法を調査し,我が国の国際的位置を明示した。

ヒト生殖細胞を ES細胞や iPS細胞などの多能性幹細胞から分化誘導する技術が完成した暁には,ヒト発生学や生殖補助医療技術(ART),着床前診断などに大きなインパクトを与えるはずだが,この細胞を臨床に橋渡しする際には2つの次元の課題が生じる。

一つに,医療応用を目的とした研究でも,人工生殖細胞を受精させて胚を作製し,発生能を評価する実験には倫理的懸念は避けられない。しかし,今回の研究の結果,人工生殖細胞を用いた ART で出生する子の安全性を確保するために,胚作製は例外的に必須と考えられた。

ただし,この研究においてもヒト胚は生命の萌芽として尊重されるべきである。世界の関連法制の調査から,日本は先導的に本研究の規制の在り方を検討してきたことが確認されたが,今後,我が国が目下,禁止している人工生殖細胞を用いた受精の解禁を検討していく上で,オーストラリア,ベルギー,カナダ,デンマークおよび英国などの規制が参考になると考えられる。

二つに,臨床応用が進んだ際に倫理的問題,社会的混乱が生じる可能性がある。これらの問題について,人工生殖細胞をドナー配偶子として他者へ提供する場合と,当該夫婦の生殖に用いる場合で分けて考察した。人工生殖細胞の技術は,現在の ART におけるドナー配偶子に起因する問題を解決する可能性がある一方で,別の問題を深刻化させるかもしれない。研究進展を先取りした多角的な深い議論が必要である。

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