東大ほか、超伝導体の物質設計に道を開く新たな理論計算手法を開発

科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、東京大学大学院工学系研究科准教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 客員研究員)の有田亮太郎氏と同大学大学院生の明石遼介氏は、物質の結晶構造と構成元素の情報だけを用いて、超伝導体が超伝導状態に変化する転移温度を精密に評価する新理論計算手法を開発した。

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有田氏らは、アルミニウムや鉛などの単純な超伝導体では、すでに「超伝導密度汎関数理論」という計算法によって超伝導状態に転移する温度Tcの高精度な予測が可能であることを基盤に、より複雑な発現機構を持つ高温超伝導体についてもTc の予測を可能とする計算法を開発した。

本手法では、結晶の格子振動が単純な超伝導体の起源となるのに対し、物質中の電子集団の振動が高温超伝導発現の起源になりうることに着目して、超伝導密度汎関数理論に電子集団の振動を因子として加えている。この手法を、常圧下で非常に低いTcを持つ一方で高い圧力下で急激にTcが上昇するリチウムに適用し、Tcの予測精度を検証したところ、既存手法では不可能であった理論計算によるTcの正確な評価に、世界で初めて成功した。

この成果は、高温超伝導体のTcの予言に適用できる新理論計算手法の精度を実証したもの。この手法で、超伝導密度汎関数理論を用いて正確なTcを見積もることができる物質の範囲が大きく広がり、新たな超伝導体物質を設計する指標が提示されるため、今後の材料探索や合成が一気に加速し、将来的には超伝導モーターや送電線の実現に資することが期待される。

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