東大、線虫の味覚記憶を発見

東京大学大学院 理学系研究科助教の國友博文氏、教授の飯野雄一氏らの研究グループは、線虫が飼育された塩の濃度を記憶し、それと同じ環境を求めて移動することを見出した。そして一連の行動が、たった一個の味覚神経細胞の働きによって調節されていることを明らかにした。

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マシンビジョンを用いて線虫の行動を詳細に観察することにより、塩に対する走性は過去に経験した塩の濃度の記憶に基づいており、餌を得ていた濃度を好み、餌を得られない、空腹を経験した濃度を避けるように行動していることを見出した。

すなわち、低い塩濃度で餌を食べていた線虫は低い塩濃度を好み、高い塩濃度で餌を食べていた線虫は高い塩濃度を好み、飼育の途中で濃度を変えると、数時間で新しい環境を記憶した。

これらの行動はたった一つの味覚神経からの入力で制御されており、その細胞で働くジアシルグリセロールシグナル伝達経路が塩濃度の好みを決めていることが明らかになった。さらに、ライブイメージングや神経を人為的に活性化する実験から、経験に依存して異なる行動を示す原因の一つは、記憶された塩濃度と現在の塩濃度の差によって、味覚神経から下流の神経への情報伝達が変化するためであるとわかった。

少数の神経細胞からなる単純な神経系を使って、線虫が意外にも高度な学習能力を持つことがわかった。記憶は脳のどこに作られ、どのように行動を変化させるのか。この研究の成果は、生物に広く見られる同様な現象を理解するための基礎的な知見となり、記憶と学習の仕組みを解明するためにも役立つと期待される。

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