理研ほか、ラン藻が作るバイオプラスチックの増産に成功

科学技術振興機構(JST)課題達成型基礎研究の一環として、JST さきがけ研究者の小山内 崇氏(理化学研究所 環境資源科学研究センター 客員研究員)らは、代謝経路を制御することで光合成微生物のラン藻が作るバイオプラスチックの増産に成功した。

130717jst1

代表的なバイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、工業規模の生産も行なわれており、環境面から広範な使用が望まれる。しかし、糖や油脂を原料としており、生産コストの面だけでなく、エネルギー供給や資源の枯渇、糖類の価格変動など多くの問題を抱えている。

一方、ラン藻は光と二酸化炭素だけを材料に、PHAの一種であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)を生産する光合成微生物として知られており、これらの問題を解決できる可能性がある。しかし、その収量は現在生産に利用されているほかの微生物に比べて1桁以上低く、増産の鍵となるラン藻のPHB合成遺伝子の転写制御機構は多くが謎に包まれており、その解明が望まれていた。

今回小山内氏らは、微生物内で炭素の貯蔵源であるグリコーゲン分解に関与する炭素代謝の制御因子である「SigE」に着目。過去の解析から、SigEがPHB生合成遺伝子の転写を制御する可能性を見出し、遺伝子改変によりラン藻細胞内でSigEのたんぱく質量を増やした。

その結果、PHB生合成遺伝子の転写量やたんぱく質量が増加し、PHB量は約2.5倍増加し、SigEがPHBの合成を制御することが分かった。また、SigEたんぱく質の増加によって糖リン酸やクエン酸など、PHB生合成経路以外の炭素化合物が増えることも分かり、今後はこれらの副次経路の代謝産物を減少させることで、PHBのさらなる増産が期待できる。

本成果によって、PHB生合成遺伝子の転写制御機構の解明が、PHB生産の高収率化につながることが明らかになった。また、従来の代謝工学では、代謝酵素レベルの改変に主眼を置いているが、「転写制御因子を利用した代謝改変」という新たな代謝工学の手法を提案することができた。今後、PHBの収量をさらに上げて、光と二酸化炭素を利用したバイオプラスチック生産の技術基盤を提供し、カーボンニュートラルな社会の構築に貢献することが期待される。

詳しくはこちら