帯広畜産大学原虫病研究センター及び東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤健太郎氏らの研究グループは,トキソプラズマ原虫の増殖を阻害する新規薬剤候補として期待される「こぶつきキナーゼ阻害剤」への耐性変異が,トキソプラズマ原虫のTgMAPK1遺伝子上に起こることを発見した。
トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫の経口感染によって引き起こされる人獣共通感染症で,免疫の弱い乳幼児などが感染すると重症化して死に至る可能性もある。ワクチンや潜伏感染に至った原虫を排除する特効薬が存在せず,トキソプラズマ症が起こる免疫抑制状態になった場合には原虫の排除ができないため,予防的に薬剤を長期にわたって使用しなければいけないことから,原虫特異的な薬剤の開発が求められている。
「こぶつきキナーゼ阻害剤」は,プロテインキナーゼのATPと結合するポケットの入口にある「門番アミノ酸」の種類によって大きく感受性を変化させる阻害剤として期待が高い。研究グループではトキソプラズマ原虫による「こぶつきキナーゼ阻害剤」への薬剤耐性が起こるのか,それがどのような変異によって,どのような仕組みで起こるのかについて研究を進めた。
研究グループは無作為突然変異を入れたトキソプラズマ原虫の中から薬剤に対して抵抗性の原虫株を得て,もとになっているトキソプラズマ原虫株と薬剤耐性株のゲノム配列を比較した。トキソプラズマ原虫のゲノム配列約6,000万塩基対の全配列を解析することにより,耐性株だけで見られたアミノ酸変異がToxoplasma gondii Mitogen-activated kinase 1 (TgMAPK1)遺伝子に発見された。
TgMAPK1遺伝子の変異により,「こぶつきキナーゼ阻害剤」によるトキソプラズマ原虫の寄生細胞内での細胞分裂への抑制効果が少なくなることがわかった。さらにTgMAPK1がトキソプラズマ原虫の細胞分裂を正常に保つ機能を持つこと及び,TgMAPK1が薬剤標的となりうることが確認された。この発見は,将来における耐性のできにくい薬剤開発につながるもの。
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