東京大学の特任研究員の菊島健児氏と特任研究員の喜多清氏,大学院理学系研究科 物理学専攻教授の樋口秀男氏は,マウスの体を傷つけることなく,白血球細胞の主要細胞である好中球を高精度に観察することに世界で初めて成功した。
2007年,樋口秀男氏らの研究グループは,量子ドットを利用した高速イメージング装置を開発し,切開されたマウスの腫瘍細胞や単一分子観察を行なった。しかしながら,切開をすると出血や免疫細胞の活性化などが起こり,細胞本来の姿を観察することは困難であった。
顕微鏡に用いる光は,生体内で吸収されたり散乱したりすることにより,像を暗くするだけでなく像をボカしてしまう。そこで今回,まず像を明るくするために,皮膚の吸収の少ない長波長の蛍光を発する量子ドットを使った。さらに蛍光材料を照らすレーザパワーとレンズの集光度を上げ,顕微鏡の倍率を下げることで多くの光を集め明るくした。
さらにボケを抑えるため,生体の屈折率に近いシリコンオイルを用い,厚さの薄いマウスの耳(耳殻)を観察対象とした。これらの改良により、耳中の細胞や血管が鮮明に見えるようになった。
このイメージング装置を用い,白血球の中でも運動能が高くかつ主要要素である好中球を観察するため,好中球だけに結合する抗体を量子ドットに結合し,これをマウスのシッポから静脈注射したところ,マウスの耳(耳殻)の血管の中を蛍光体の結合した好中球が高速に流れていくさまを観察することができた。
観察の結果,普段好中球は血管内を循環しているが,皮膚を刺激することで血管から脱出し血管外を高速に動く姿を実時間でとらえることができた。さらに,好中球内を輸送される小胞も予想外に高速に動くなどの新しい発見があった。これらのことから,好中球は細胞内の小胞も含めた全体の運動を速くすることで,患部にたどり着く時間を短くすることが示唆された。研究グループが開発した方法は,日常的に起こる免疫反応やがん細胞のイメージングに威力を発揮することが期待される。
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