物質・材料研究機構光・電子材料ユニット主任研究員の寺地徳之氏らの研究グループは、化学気相合成法(CVD)でダイヤモンドを生成する際の原料利用率を大幅に向上する新合成技術を開発した。また、この新技術を、質量数12の炭素(12C)で同位体濃縮したダイヤモンド結晶の合成に適用し、世界最高の12C同位体比を持つダイヤモンドバルク単結晶の合成に成功した。
高純度ダイヤモンドをCVD法で合成する場合、一般にメタンガスが原料に用いられる。通常は供給されたメタンガスの高々1%がダイヤモンドに変換され、99%以上のメタンガスは未反応のまま排気されるが、新開発のCVD法を用いたダイヤモンド合成技術では、従来法と大きく異なる条件で原料ガスを供給することで、メタンガス原料の原料利用率を大幅に向上。多結晶ダイヤモンド合成時の原料利用率で、80%という非常に高い値を実現した。
原料利用率の高いCVD合成技術を得たことで、非常に高価な同位体濃縮メタンを原料とするダイヤモンド合成が可能となり、12C同位体比で世界最高値の99.998%(13Cが0.002%)という値を持つダイヤモンドバルク単結晶を得ることに成功した。高圧高温合成法(HPHT)によるダイヤモンド合成において、本技術で得られた多結晶ダイヤモンド(12C同位体比が99.998%)を固体原料として用いることで、12C同位体比が99.995%の単結晶ダイヤモンドが得られた。
HPHT合成には固体炭素原料が必要だが、一般に、12C同位体濃縮原料はメタンガスなど、原料ガスとして供給されるため、HPHT合成用の12C固体炭素原料を得るには、メタン原料利用率を高めた本CVD技術は必須。
12C同位体濃縮されたダイヤモンドは、12C天然存在比98.9%(13Cが1.1%)のダイヤモンドに比べて熱伝導度が高く、高性能ヒートシンクなどの様々な応用が期待される。また、12C同位体濃縮したダイヤモンド結晶内では電子スピンのコヒーレンス時間が長くなることが知られており、ダイヤモンドを用いた量子情報通信素子の高性能化に向けた開発の加速が期待される。
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