東大ら,ナノ-バイオ境界を高精度に扱える設計ツールを新たに開発

東京大学生産技術研究所を拠点として行なわれている,文部科学省次世代IT 基盤構築のための研究開発「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクトにおいて,バイオテクノロジー分野のソフトウェア開発を担当する立教大学理学部教授の望月祐志氏,みずほ情報総研チーフコンサルタントの福澤薫氏,東京大学生産技術研究所特任研究員の沖山佳生氏,同特任研究員渡邉千鶴氏らの研究グループは,これまで主に理論創薬の分野で用いられてきたFMO法をナノ-バイオ複合系に適用する技術を新たに開発し,シリカ表面と微小タンパク質(ペプチド)の相互作用の大規模モデリングに応用することに成功した。

独自開発のABINIT-MPプログラムを拡張して4体までのフラグメント展開を行う「FMO4法」を実装,4体補正によって計算精度が飛躍的に向上することを実証すると共に,ABINIT-MPの高速化(NECと共同)を図った。

この手法を用いると,ナノ材料とタンパク質の親和性をアミノ酸の側鎖単位毎の高い空間解像度で定量的に評価することができる。これは,ナノ-バイオ界面の親和性評価のための解析ツールを世界で初めて電子状態レベルで実現したもの。

用いたペプチドは,人工的に設計された6つのアミノ酸残基からなるもので,シリカ表面を特異的に認識する。これをシリカ結晶のナノクラスターモデルに結合させ,水和条件を課した上で分散力を取り込める2 次摂動レベルで計算した。実行にはノード当たり12個コア,それを168ノード持つFOCUSスパコンを用いた。その計算結果の解析から,3つの荷電残基がシリカ表面との相互作用において重要であることが示された。こうした情報はペプチドの設計において有益な知見となる。

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これらの成果は,ナノ-バイオの境界領域の問題に対して計算・シミュレーションの有用性を示す。生体親和性の高いインプラントの開発や医療分野での計測装置としてのバイオセンサーやナノイメージング,さらには生物に無機鉱物を作らせるバイオミネラリゼーションの研究開発に幅広く役立つと期待できる。

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