理化学研究所生命システム研究センター集積バイオデバイス研究ユニットユニットリーダーの田中陽氏は、ガラス基板に刻まれたマイクロ流路内に、柔軟性のある超薄板ガラス製バルブ(弁)を組み込むことに成功し、全てガラスでできたマイクロ流体チップを実現した。
ガラス製のマイクロ流体チップは、数cm角のガラス基板上に幅・深さ1 mm以下の流路を形成し、化学・生化学のプロセスを集積化したもの。ほとんどの溶媒・溶質に対して安定なため、医療診断向けの小型・高速反応の次世代型デバイスとして期待されている。しかしガラスは硬いため、その中に流体を制御するバルブをガラスで作製して組み込むことはできず、流路をマイクロレベルで集積できるメリットが十分に生かせなかった。一方、樹脂製のマイクロチップは柔軟性があり、バルブの組み込みが容易だが、有機溶媒と反応しやすいことや、気体を吸収してしまうという難点があり、高度な表面化学処理が必要な細胞のパターニングなどには物理的・化学的安定性の面で不向きだった。
そこで研究ユニットは、近年開発され市販されている厚さ6 マイクロメートル(μm)の超薄板ガラスに着目。このガラスは薄いために柔軟性が高く、フィルムのようによく曲がる特徴を持つ。この超薄板ガラスをバルブとしてガラス製マイクロ流体チップに組み込む技術を考案し、ピエゾ素子(圧電素子)と組み合わせることで流路の開閉を実現、バルブも含め全てガラスでできたマイクロ流体チップの作製に成功した。
ガラスバルブの応答時間は0.12秒と非常に速く、また、ほとんどの溶媒・溶質に対して安定であるため、汎用的な化学・生化学のプロセス集積システムへ応用可能。特に、医療診断、一細胞操作、または分子合成などの分野で有用なツールとして期待できる。
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