理研、脳の海馬の左右間に発達の差を発見

理化学研究所は、ラットを使った実験で、刺激に富む環境で飼育すると脳の海馬の左右間に発達の差が出ることを発見した。この発見は、飼育環境の違いという外的因子により、脳機能の左右非対称性が促進されることを示す。これは、理研脳科学総合研究センター神経グリア回路研究チーム研究員の篠原良章氏、テクニカルスタッフの細谷亜季氏、チームリーダーの平瀬肇氏による成果。

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研究チームは生後3週~6週目のラットを1匹だけでケージで飼育する「隔離飼育群」と、遊具を入れたケージで集団飼育する「豊かな環境飼育群」とに分け、左右の海馬CA1領域の脳波活動を計測。その結果、豊かな環境飼育群では、脳波の1つであるガンマ(γ)波の振幅が大きくなり、なかでも右側のγ波の振幅が左側に比べてより大きくなっていることを発見した。さらに、豊かな環境下のラットは左右のγ波のリズムが同期することも明らかになった。また、豊かな環境飼育群で、シナプス入力の一端を担うNMDA受容体の働きを抑制すると、このようなγ波の変化は起こらなかった。

NMDA受容体は記憶や学習に関わり、特に脳が学習するときの本質であるシナプスの可塑性に重要な働きをすることが知られている。したがって、豊かな環境飼育群ではシナプスの可塑性が起きて顕著なγ波の変化が出現することが示唆された。そこで、実際に海馬CA1領域のシナプス形態を調べてみた結果、豊かな環境飼育群の右側のシナプス密度が左側に比べ明らかに高くなっていた。これにより、飼育環境の違いでシナプスが増えることで神経回路の再編が左右非対称に起きることが確認できた。

今回の発見は、海馬が霊長類で急速に進化した大脳新皮質の原型であることから、ヒトの脳が左側だけに言語野を持つなどの機能的左右差形成の仕組みを解明する手掛かりになると期待できる。

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