理化学研究所は、神経系に発現する膜タンパク質の1つをコードする「SLITRK6遺伝子」の変異が、近視と難聴の合併症の原因となることを発見した。これは、理研脳科学総合研究センター行動発達障害研究チームチームリーダーの有賀純氏と英国ロンドン大学のアンドルー クロスビー氏、米国マイアミ大学のムスタファ テキン氏らを中心とした共同研究グループによる成果。
共同研究グループは、近視と難聴の合併症を発症する3家系(米国人、トルコ人、ギリシャ人)の遺伝子変異について網羅的に探索、解析したところ、SLITRKファミリーの1つである「SLITRK6遺伝子」にそれぞれ異なる変異があることを見いだした。さらに、これらの変異遺伝子からコードされる変異SLITRK6タンパク質は、正常なSLITRK6タンパク質が持つ「シナプス形成を促進する機能」と「神経突起の形成を制御する機能」が失われていることが分かった。このことから、SLITRK6タンパク質の機能喪失が近視と難聴の併発を引き起こすと推測した。
難聴への関連については、マウスを用いた実験で2009年に理研行動発達障害研究チームがすでに報告した。そこで今回は、近視への関連についてSLITRK6タンパク質を欠損したマウスを用いて検討したところ、生後の成長過程での視軸長(眼球の奥行き方向の長さ)の伸長度合いが、正常マウスより大きいことを見いだした。さらに、SLITRK6遺伝子は生後の成長過程で網膜に発現すること、SLITRK6タンパク質欠損マウスでは、網膜の神経回路形成に遅れが生じて近視が起きることが分かった。
今回、近視と難聴を併発する原因遺伝子を発見したことに加え、正常視に重要な視軸長の形成に関する重要な知見を得た。今後、近視や難聴の発症メカニズムの理解や新しい治療法開発に貢献すると期待できる。
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