月刊OPTRONICS 特集序文公開

フォトニック結晶レーザーの自由空間光通信応用に向けた展開

1.はじめに

近年,各国において宇宙開発が激化しており,その中でも衛星を利用した通信技術に注目が集まっている。衛星通信を用いることで,従来電波が届きにくかった場所にも高速な通信が提供可能になり,かつ地上にてケーブル敷設が難しい場所においても,初期投資を抑えて通信インフラを構築できるというメリットがある。その中でも,衛星間通信に光通信を応用する試みが数多く報告されている。光のキャリア周波数は,従来のマイクロ波やミリ波よりも圧倒的に高いため,大容量データの送受信が可能であり,かつライセンスや規制の対象外であるため,自由度が増すという利点もある。こういった特徴を生かして,光による衛星間や衛星-地上間通信が検討されている。

衛星にも幾つかの種類が存在し,例えば低軌道(Lowearth orbitLEO)衛星と静止軌道(Geostationary earthorbitGEO)衛星等がある。LEO衛星は地上から約2,000 km以内の軌道で,約90 分で地球を一周する。低コストで打ち上げられるが,視野が狭く常に移動しているため,限られた時間でしか地上と通信できない。対して,GEO衛星は約36,000 kmの高度で,地球の自転と同じ速度で回るため特定の位置から常に見ることができ,広範囲をカバー可能ではあるが,打ち上げコストが高い。

我々はこれまで,これらLEO-LEO間やLEO-GEO間などの衛星間光通信向けに,フォトニック結晶レーザー(Photonic-crystal surface-emitting laserPCSEL)を使った新しい光通信システムを提案してきた。PCSELは,大面積でかつ単一モード発振が可能で,ワット級の出力と狭いビーム拡がりを同時に実現できる。従って,従来光ファイバー増幅器を用いて実現していたワット級の光出力も,単一のPCSELのみで同様のことが実現できる可能性がある。また狭いビーム拡がりによって,究極的には外部光学系なども排除できる可能性もあり,衛星の大幅な小型化にも寄与できる。

2022年に初めてPCSELを使ったワット級の自由空間光(Free-space opticalFSO)通信を実証して以降,フルCW動作下での10 Gb/s 超の実証や,周波数変調とコヒーレント受信を組み合わせた実証等,これまで大容量化と高感度化の2 つの方向性に着目し研究を行ってきた(図1)。本稿では,そうしたこれまでの取り組みについて概説し,PCSELの宇宙光通信への適用の可能性について議論する。

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