月刊OPTRONICS 特集序文公開

誘電体メタサーフェスを用いた光通信デバイス

1.はじめに

光学メタサーフェスは,二次元平面上に高密度に分布した波長以下の微細構造アレイによって入射光の波面や偏波を制御することが可能な光学素子の総称であり,二次元メタマテリアルとも呼ばれる。もともとは,金属の微小構造からなるメタサーフェスを用いることで,通常ではあり得ない屈折や反射が実証されたことが発端となったが,その後,誘電体を用いたものでも同様の波面・偏波制御が可能であることが明らかになり,金属に比べて低損失であることから大いなる注目を集めた。これまでに,平坦な集光レンズ(メタレンズ),偏光カメラ,イメージセンサ一体型カラーフィルタなどが実証され,イメージング・センシング応用を中心に実用化に向けた研究開発が加速している。

一方,このような誘電体メタサーフェスを光通信・光配線デバイスに適用する試みが,近年急速に注目を集めている。その背景には,第一に,昨今の光通信の大容量化に伴い,空間分割多重(SDM:spatial division multiplexing)光通信方式が本格的に導入され始めた点がある。SDMシステムでは,マルチコアファイバ(MCF:multi-corefiber)や多モードファイバ(MMF:multi-mode fiber)を介して伝送された複数の光信号を送受信器において多重・分離するためのデバイス,いわゆるファンイン・ファンアウト(FIFO:fan-in-fan-out)が必要になるが,メタサーフェスを用いることで,このようなFIFOの小型化・低コスト化が可能になる。

第二に,デジタルコヒーレント光通信方式の拡大が挙げられる。光の強度のみに情報を載せる強度変調直接検波(IMDD:intensity-modulation direct-detection)方式とは異なり,コヒーレント方式では,光の位相(複素振幅)と偏波状態も含めた四次元の自由度をフルに活用して情報を伝送する。その結果,IMDD方式に比べて大容量化が実現できる一方で,送受信器において各偏波の複素振幅成分を変調/検出する必要があり,必然的に複雑な構成になってしまう。このような“高価な”コヒーレント方式は,従来は長距離伝送系において用いられたため大きな問題にはならなかった。しかし昨今のクラウドやAIサービスの急速な普及に伴い,データセンター内の光通信容量が爆発的に増大しており,そのような短距離ネットワークにおいても大容量のコヒーレント方式を導入する必要性が叫ばれている。そこでは,コヒーレント送受信器の低コスト化,小型化,省電力化が不可欠であり,複雑な光波面・偏波制御を一枚の小型素子で実現できるメタサーフェスへの期待は大きい。

本稿では,このような背景を受けて著者らが進めている誘電体メタサーフェスを用いた各種光通信デバイスの研究開発状況を紹介する。

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