1.はじめに
ネットワークトラフィックの増大に伴い,国際通信を支える光海底ケーブルも伝送容量拡大が求められる。図1 に光海底ケーブルの概略図を示す。光海底ケーブルの長さは大西洋横断がおよそ6,000 km,太平洋横断がおよそ9,000 kmとなる。陸揚げ局には光海底ケーブルに光信号を入出力する端局装置,中継器に電力を供給する給電機器,各システムやネットワーク全体を管理するための監視装置が置かれる。端局装置から入った光信号は光ファイバの伝送損失により減衰していくため,光増幅器が入った中継器を光海底ケーブル中に一定間隔で設けて減衰した光信号を繰り返し増幅しながら伝送される。光海底ケーブル中に設置された光ブランチングユニットでは光海底ケーブルの中に収容された複数の光ファイバを異なるルートの光海底ケーブルに分岐する。さらに,光ブランチングユニット内に設けられたROADM機能により光信号の経路を波長単位でも切り替えられるので,複数の局を効率的に結ぶことが可能になる。光増幅器が使用する電力は光海底ケーブルの両端の給電機器からのみ供給されるので,ケーブル中の個々の光増幅器には使用可能な電力に限界がある(電力制限)。また,光海底ケーブルの製造性,ケーブルの構造や取扱いの容易さを考慮するとケーブル外径の大きさにも制限が生じる(空間制限)。光海底ケーブルネットワークの設計はこの電力制限と空間制限を考慮して行う必要がある。
光海底ケーブルの最大伝送可能容量Cは下のシャノンの式で求めることができる。
(1)
式⑴のBは波長チャネル数であり,マルチバンド技術を用いることで大きくすることができる。Nは光海底ケーブル中のファイバコア数であり,空間多重技術(SpaceDivision Multiplexing:SDM)を用いることで大きくすることができる。マルチバンド技術はCバンドとともにLバンドなど他波長帯域も活用して伝送を行う技術である。しかし,他波長帯域はCバンドと比較して,光ファイバの損失が高くなり,光増幅器として一般的に用いられるEDFA(Erbium-Doped Fiber Amplifier)の増幅効率が低くなってしまう。電力制限が要求される光海底ケーブルでは,中継器内の光増幅器の効率向上とスパン長を長くすることによる中継器の個数削減が求められている。このためCバンドを最大限活用できるSDMによる伝送容量拡大が有用であると考えられる。本稿ではこのSDMを利用した光海底ケーブルの伝送容量拡大について説明する。
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