1 AR / VR用マイクロディスプレイ
AR(拡張現実)/VR(仮想現実)は,エンターテインメントにとどまらず,製造・医療・教育・物流・遠隔支援などへ応用範囲を広げており,次世代の情報インターフェースとして社会実装への期待が高まっている。その鍵を握るのが,目の至近距離に配置されるマイクロディスプレイである。ARグラスやVRヘッドセットには,眼鏡のような軽量・小型化に加え,屋外でも見える高輝度,高精細,高コントラスト,低消費電力,高速応答が同時に求められる。特にARでは,周囲の明るい環境に重ねて情報を表示するため,従来以上の輝度が不可欠である。
こうした要求に対し,マイクロLEDは他のディスプレイ技術を凌駕する可能性を持つ1)。自ら発光するためバックライトを必要とせず,画素単位で光を制御できることから,極めて高いコントラストと黒表示を実現できる。また,OLEDに比べて高輝度化しやすく,無機半導体であるため長寿命で,応答速度も速い。さらに,数μm以下のLEDを集積することで,2,000~5,000 ppiを超える超高精細な表示も視野に入る。これは,小型・軽量でありながら高画質を必要とするAR/VRに極めて適した特性である。
しかし,フルカラーのマイクロLEDを社会実装するうえで最大の難関の一つが「赤色」である。青色・緑色ではGaN系材料が高効率化してきた一方,赤色には従来AlInGaP系材料が用いられてきた。しかし,LEDを数μmまで微細化すると,側壁表面での非発光再結合などにより効率が急激に低下する。さらに,GaN系材料で赤色を実現しようとしても,In含有量を増やすことによる結晶品質,格子不整合,分極電界などが障害となり,青・緑と同等の効率を得ることが難しい。
そのため現在,赤色マイクロLEDをめぐる開発競争は激しさを増している。高効率な赤色InGaNの開発,ナノワイヤ構造や多孔質GaNによる結晶・発光特性の改善に加え,青色マイクロLEDで量子ドットやペロブスカイトを励起して赤色へ変換する方式など,複数のアプローチが競い合っている。
つまり,マイクロLEDは「高輝度・高精細・低消費電力・長寿命」というAR/VR時代の社会的要請に極めて合致した技術である一方,フルカラー化,とりわけ微小な赤色LEDの高効率化が実用化を左右するボトルネックとなっている。この「赤」を制することが,次世代AR/VR市場の主導権を握る重要な技術競争になっているのである。
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