月刊OPTRONICS 特集序文公開

AR / VR を日常のデバイスへ  ディスプレーと光技術が超える壁

AR / VR は,どこまで眼鏡になれるか 著者:編集部

AR(拡張現実)/VR(仮想現実)を取り巻く潮流に変化がみられる。これまで市場を牽引してきた代表例には,Meta Questシリーズに代表されるVRヘッドセットや,Apple Vision Proのような高性能MRデバイスが挙げられる。高精細ディスプレーやセンシング技術の進展によって没入感は向上してきた一方,重量,価格,長時間装着時の負担といった課題は依然として残っている。こうした中,存在感を高めつつあるのが,より眼鏡に近い形状を持つARグラス,さらにディスプレーを搭載しないAIスマートグラスである。

市場調査会社Counterpoint Researchによれば,2026年上期の世界スマートグラス市場は前年同期比212%増となり,米国Metaが出荷台数の約84%を占めたという。日本でもRay-Ban Meta,Oakley Metaに続き,2026年8月にはMeta Glassesの販売が始まった。これらは現時点では映像表示を主役としないが,カメラ,マイク,スピーカー,AIを日常的な眼鏡に組み込むことで,「常時身につけるコンピューター」という新しい利用習慣につながりつつある。今後の焦点の一つは,この装着性を維持したまま,視界へ情報を自然に重ねるディスプレーをいかに統合するかにあるとみられる。

その実現は,ディスプレー単体の高性能化だけでは難しい。ARグラスでは,薄さ,重量,視野角(FOV),Eyebox,外界透過率,表示輝度,色再現性,消費電力の両立が求められる。サングラス型のARグラスで用いられるバードバス光学系は比較的高い画質を得やすいが,光学系の厚みや外界透過率に制約がある。一方,透明基板内に映像光を導くウェーブガイドは,通常の眼鏡に近い外観を実現しやすく,今後の本命技術の一つとみられている。本特集では,DOE,HOE,LOEなどの方式を整理するとともに,ナノ微細加工を活用したDOE型ウェーブガイドの動作原理,Eye-box拡大,広視野角化,量産技術までを取り上げる。

ただしウェーブガイドは,薄型・軽量という利点の裏側で光利用効率に課題がある。映像光を基板内へ取り込み,伝搬させ,さらに瞳位置のずれを許容するために光を複製する過程で損失が生じるため,屋外利用では高輝度のマイクロディスプレーが求められる。フルカラー化では波長分散への対応も必要であり,ウェーブガイドの積層が重量やコストを押し上げる場合もある。高屈折率材料,グレーティング設計,ナノインプリント,メタサーフェスなど,光をいかに効率よく眼へ届けるかが重要になるとみられる。

VR側でも,競争軸は解像度だけでは捉えにくくなっている。現在のVR-HMDでは,偏光を利用して光路を折り返すパンケーキ光学系の採用が薄型化の手法として広がっている。一方で,従来型は光利用効率が低く,輝度や消費電力,発熱の面で不利になりやすい。本特集では,こうした課題の改善を目指す高効率パンケーキ光学系をはじめ,接眼レンズ分割方式やホログラム方式などの新しいアプローチも紹介する。小型・軽量化と高画質,そして省電力化をいかに両立するかは,VRの今後を考える重要なテーマとみられる。

光学系と表裏一体で進化しているのがマイクロディスプレーである。OLED,LC(Liquid crystal),LEDなどが用途に応じて使い分けられる中,高輝度,高精細,低消費電力という特性からマイクロLEDは期待されている。しかし,フルカラー化,とりわけ数μmまで微細化した赤色LEDの効率確保は依然として重要な技術課題とされる。本特集では,Eu添加GaNによる赤色LEDやRGB集積化の研究を通して,材料・結晶成長から超高精細ディスプレーへつながる技術の可能性を追う。

さらに,従来の「小型ディスプレーを光学系で拡大して見る」という発想とは異なり,レーザー光を直接網膜へ導く網膜投影方式も選択肢の一つとみられる。焦点位置への依存を抑えられる特性を生かし,視機能支援やヘルスケアへの応用が進められてきた。今後,アイトラッキングと組み合わせた光路制御や省電力化が進めば,スマートグラスにおける表示方式の新たな可能性を開くことも考えられる。

2026年には,米国Snapがシースルー型ARグラス「Specs」を発表し,中国XREALもAndroid XRとAIを組み合わせた「XREAL AURA」を2026年秋に投入予定としている。スマートグラス市場への期待が高まる中,ディスプレーを備えたARグラスでもAI,OS,センシング,光学系を統合する動きがみられる。競争の舞台も,表示デバイス単体から「眼鏡型コンピューティング」のシステム全体へ広がる可能性がある。

AR/VRデバイスは,最高解像度や最大FOVといった一つの数値だけでは評価しにくい。十分な画質を保ちながら,どこまで軽く,薄く,明るく,省電力にできるか。そして現実世界を見るという眼鏡本来の機能を損なわず,必要な情報だけを自然に提示できるか。本特集で取り上げるパンケーキ光学系,ウェーブガイド,マイクロLED,網膜投影技術を俯瞰すると,次世代AR/VRでは,光源,ディスプレー,光学,材料,半導体微細加工,センシング,AIの総合的な最適化が重要になると考えられる。スマートフォンの次の情報インターフェースとして眼鏡型デバイスが定着するのか。2026年は,その可能性を技術と市場の両面から見極める重要な局面に入ったと言えそうだ。

編集部

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