月刊OPTRONICS 特集序文公開

テラヘルツ帯を活用した仮想化端末技術

著者:KDDI総合研究所 菅野一生,伊藤智史,渡辺大詩,大関武雄

1.はじめに

モバイル通信分野では5Gの普及が進む中,2030年頃の開始を目指して6Gの研究開発が本格化している。2030年代はAgentic AIやPhysical AIが普及して新たな価値を生み,豊かで安心・安全な社会の実現が期待されており,これを支える通信基盤として6Gが位置づけられている。これまでのモバイル通信のトラヒックはスマートフォンやIoTデバイスを中心に拡大してきたが,近年はLLMやVLMなどのAI技術の発展により,トラヒック増加は新たなフェーズへと突入している。さらに高度なAIが自律的に協調する時代においては現在とは比較にならない膨大なトラヒックを収容することが必要になると想定される。この基盤となる周波数帯に関して,5GではFR1(7 GHz以下)に加え,広帯域なFR2(28 GHz等のミリ波帯)の活用が始まっている。一方で,6G導入に向けた周波数帯の議論はより現実的なものとなっている。FR2は広帯域である一方で直進性が高く面的なエリア展開にコストを要することから,世界的に普及が足踏みしている状況にある。このような状況から,6G導入に向けてはカバレッジと帯域のバランスが良いFR3がWRC-23で一部特定されるなど,業界の関心は一度,低い周波数帯へと揺れ戻された傾向にある。

一方で,将来のトラヒックの爆増を見据えると,FR3の追加だけではいずれ限界を迎えることも想定される。このため,6G初期での導入は見送られているものの,中長期的には超広帯域なテラヘルツ帯(100~300 GHz帯など)の活用が期待される。テラヘルツ帯では,FR2を超える超広帯域な伝送が期待できる反面,伝搬損失が大きく,広域に伝送するのはミリ波以上に困難となることが想定され,基地局端末間でのスポット利用,バックホール回線やFWAなどの固定回線での活用が有望である。これらの活用とは独立して,筆者らは「面的カバーの困難さ」を前提としたテラヘルツ帯の新たな活用法として,「仮想化端末」のコンセプトのもと研究開発を進めている1)。この技術は,テラヘルツ帯を利用して端末近傍のデバイスを連携させた上で,低い周波数帯での空間多重を前提とした端末連携協調送受信を行い,FR1~FR3のような比較的低い周波数帯の性能改善に繋げる活用方法である。とりわけ,前述したAIトラヒックの増加により今後要求が高まる一方で,送信電力や実装アンテナ本数が端末の実装制約により制限されやすい上りリンクのスループットやカバレッジの拡大に大きく期待できる伝送方式である。本稿では,テラヘルツ帯を活用した仮想化端末のコンセプトやその実証などの取り組みを紹介する。

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