月刊OPTRONICS 特集序文公開

テラヘルツ波無線はどこで使えるのか  6GとAIインフラを結ぶ100GHz超無線

学術からエンジニアリングへ:テラヘルツ波無線が拓く新たな通信領域 著者:情報通信研究機構 寳迫巌

1.テラヘルツ波無線を巡る世界の潮流と日本の優位性

現在,100 GHzを超えるテラヘルツ周波数帯を用いた無線通信の実用化に向け,世界各国で熾烈な開発競争が展開されている。その中で日本は,標準化からシステム開発に至る様々な技術レイヤーにおいて研究開発をリードする立ち位置にあり,高い国際的優位性を保持している。

第5世代移動通信システム(5G)では28 GHz帯のミリ波利用が開始されたが,続く6G(Beyond 5G)の研究開発においては,世界的にテラヘルツ波が次なる本命として浮上した。国内においても,NICTの「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」等を通じて多くのプロジェクトが実施され,着実な成果が創出されている。

2.「Day 2」技術としての現状認識と真の適用領域

2026年現在,世界的にはテラヘルツ波無線を6Gにおける「Day 2(導入の中盤以降)」の技術と捉える認識が共有されている。もし5Gにおけるミリ波の普及が当初の想定通り順調に進展していれば,現在はこれらの研究成果を踏まえたテラヘルツ波のシステム実証がより盛んに行われていたはずである。

しかし,ここで正しく認識すべきは,「Day 2」という評価は主に無線アクセスネットワーク(RAN),すなわち基地局と端末間の通信に関するものに限定されるという点である。ネットワーク内のフロントホールやバックホール,あるいはその他の接続の無線化といった応用開拓においては,必ずしも「Day 2」に留まるものではない。

3.AI 時代のインフラとしてのテラヘルツ波

生成AIの急速な普及に加え,今後の活用進展が見込まれるフィジカルAIを支えるためには,計算資源と情報通信ネットワークの高度化が喫緊の課題である。テラヘルツ波無線が持つ100 Gbps程度の超高速・大容量性や,鋭いビーム形成により干渉を抑制できる特性は,次世代のインフラを構築する上で極めて大きな可能性を秘めている。

4.技術の成熟度と本特集の構成

テラヘルツ波無線の研究開発を取り巻く状況は複雑ではあるが,着実に進展していることは疑いようがない。本特集では,ITU-Rでの国際的な周波数確保に向けた取り組みから,携帯キャリア各社による実証,そして部品・デバイスメーカーによる実装技術に至るまで,垂直統合的な視点を提供している。

特に,今回の執筆陣の多くが民間企業の技術者で構成されているという事実は,本技術が学術的な探究の段階を脱し,商用化を見据えたエンジニアリングのフェーズへと着実に移行していることを示す重要な指標である。

5.用語の「揺れ」に関するガイダンス

本特集を読み解くにあたっては,テラヘルツ帯やミリ波という呼称に存在する「揺れ」に注意を払う必要がある。学術的な定義(30~300 GHz)としてのミリ波と,5Gの文脈で用いられる「ミリ波~28 GHz帯」という呼称,さらには100 GHz超を指す「サブテラヘルツ」という用語などが混在しているのが現状である。読者諸兄におかれては,各記事が対象とする具体的な周波数帯を,文脈から適切に判断されたい。

6.おわりに

本特集を通じて,テラヘルツ波技術の現在地に対し「ここまでできているなら自社のビジネスでも使ってみたい」といった前向きな手応えを読者が得られるのであれば,企画者としてこれに勝る喜びはない。

寳迫巌
産業技術総合研究所 光電融合研究センター 情報通信研究機構 Beyond Connectivity研究開発推進ユニット ユニット長

略歴
1993年博士号(理学)を取得。日本鋼管のULSI研究所を経て通信総合研究所(現NICT)に入所。情報通信研究機構(NICT)の未来ICT研究所所長,ワイヤレスネットワーク総合研究センター長,Beyond 5G研究開発推進ユニット長を経て,2026年4月よりBeyond Connectivity研究開発推進ユニット長。これまでにテラヘルツ帯の半導体デバイス・カメラ・ワイヤレスシステムの研究開発,Beyond 5Gのホワイトペーパー出版やアーキテクチャの研究に従事。IEEE 802.15 Standing Committee Terahertz(SC-THz)の副委員長。

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