照明等を使用しない超低照度下のビデオ撮影は,カラー化が大きなハードルとなる。これを実現するにはNHKなどが開発したHARPカメラや,顕微鏡などで使われるEM-CCDなど超高感度の撮像デバイスを使う方法があるが,これらは信号を増幅するために高電圧と放熱を必要とするだけでなく,これがデバイスの寿命を縮めたり,欠陥画素が発生したりする原因にもなる。また,信号増幅がノイズも増やしてしまうという課題も併せ持っている。
一方,明るい大口径レンズを用いて集光するアプローチもあるが,特にF/1.0以下を実現するようなレンズは必然的に大きく,重いものになり,汎用性が犠牲になる。また明るいレンズは周辺の収差が大きくなるため,空間分解能も低下してしまう。さらに,こうしたレンズで集光しても,センサ自体が持つ画素の欠陥については有効な解決策とはならない。
こうした問題に対し,静岡大学 電子工学研究所 准教授の香川景一郎氏は,複数のカメラを利用する「マルチアパーチャカメラ」(複数のレンズをグリッド状に配したカメラ)を用いることで,F値がそれほど高いレンズでなくても,超低照度でのカラー撮影を可能にする技術を開発した。
その原理は,複数のレンズで撮影した各画像を重畳してS/N比を上げようというものだが,センサには画素ごとにトランジスタから発生するアンプノイズや,光が当たっていなくても信号が出てしまう暗電流など様々な要因のノイズが存在するため,単純に画像を平均化するだけでは質の高い映像は得られない。
そこで香川氏は,あらかじめ各画素のノイズのレベルを測定しておき,撮影時に被写体距離に合わせてノイズが最小になる組み合わせを見つけ,それを使って加算平均する「選択的平均化法」を採用した。これにより,ノイズの大きな画素は取り除かれるため,欠陥画素を隣の画素などで補う補完処理が不要となるほか,暗電流・アンプノイズの低減,S/N比の改善も期待できるという。
実験に用いたレンズはF/3.0とやや暗めだが,センサは静岡大学の川人祥二教授研究室で開発した超高感度モノクロセンサを使用した。その結果,被写体照度0.03 lxにおいて,欠陥画素の影響が無く,S/N比も改善した映像を得ることができた。
現在撮影できる映像はモノクロだが,今後はカラーセンサによってカラー化を実現するという。具体的な応用については,天文観測や放送カメラなどのほか,特に明るいレンズを使用しなくてもいいことから,超広角レンズを用いた高感度監視カメラも期待できるとしている。