東工大,透明酸化チタン電極の有機薄膜太陽電池を開発

東京大学と神奈川科学技術アカデミーの研究グループは,スパッタ法によりニオブドープ酸化チタン薄膜を作製し,それを有機薄膜太陽電池の透明電極に用いる検討を行なった(ニュースリリース)。

有機薄膜太陽電池の透明電極には,酸化インジウムに少量のスズをドープした酸化インジウムスズが一般的に用いられているが,レアメタルであるインジウムは供給が逼迫するリスクもあり,代替材料の開発が望まれている。

そうした代替材料の有力候補として,酸化チタンに少量のニオブをドープしたニオブドープ酸化チタンがある。ニオブドープ酸化チタンは低い抵抗率や高い可視光透過性などの優れた特性をもつが,太陽電池の透明電極向けには最適化されておらず,これまでに太陽電池の透明電極としてはほとんど用いられていなかった。

これは,太陽電池の透明電極では抵抗が低く光を通しやすいだけでなく,最適なエネルギー準位や電荷を選択的に捕集して輸送する特性などが求められるため。

有機薄膜太陽電池の有機発電層には,ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)とフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)をそれぞれ電子供与体,電子受容体として用いている。

有機薄膜太陽電池では,有機発電層が光を受けて電子と正孔(ホール)を生成するが,透明電極側および裏面電極側に電子および正孔が,それぞれ選択的に捕集される必要がある。

酸化インジウムスズやニオブドープ酸化チタンなどの透明導電膜は電子と正孔の両方を捕集してしまい,このような場合,電子の流れを一方向にするため,透明導電膜と有機発電層の間に酸化亜鉛や酸化チタンなどの電子輸送層が必要となる。

研究では,ニオブドープ酸化チタンの母体が電子のみ選択的に流す特性をもつ酸化チタンであることに着目。UVオゾン処理によりニオブドープ酸化チタン表面を酸化して,表面においてのみ電気が流れる特性を元の酸化チタンの特性に戻し,電子のみを選択的に捕集して流す透明電極を構築することに成功した。

ニオブドープ酸化チタン薄膜におけるニオブの量は,光の透過を多くするため通常より少ない2%(Ti0.98Nb0.02O2)とし,300nmの厚みで有機薄膜太陽電池の電極に用いるために求められる抵抗(シート抵抗40Ω/sq以下)となることを確認した。

UVオゾン処理時間を変えたニオブドープ酸化チタン透明電極を用いて有機薄膜太陽電池を作製してエネルギー変換効率を評価したところ,15分の処理では表面の半導体化は不十分で漏れ電流が見られたものの,30分の処理から漏れ電流はなくなり,60分,90分と処理時間を延ばすとニオブドープ酸化チタン薄膜の電荷を選択的に捕集する機能が高まり,より大きな電流が得られた。

最大で2.75%のエネルギー変換効率が得られ,これは,酸化インジウムスズと酸化亜鉛を用いた参照素子のエネルギー変換効率(2.91%)に匹敵する値。

比較的高い変換効率が得られたのは,UVオゾン処理による表面酸化により表面のエネルギー準位が大きくなり,そのため,有機発電層で生じた正孔をブロックできるようになり,電子だけがニオブドープ酸化チタン電極に流れるようになったため。

今回,ニオブドープ酸化チタン電極が,単純な酸化インジウムスズ電極の代替を超えて,電子輸送層としての機能も兼ね備えることが明らかとなった。レアメタルの使用が抑えられるだけでなく,有機薄膜太陽電池の多層構造がより単純になり,有機薄膜太陽電池の作製の工程の簡略化などが期待されるという。

今回見いだされた方法は,より高効率な有機薄膜太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池など,他の有機系太陽電池にも適用できると考えられ,有機系太陽電池の実用化に向けた研究に貢献するものだとしている。

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