産総研,光コムを用いたガス検出・同定法を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,光コムを用いて,環境計測に適した高速で高精度のガス検出・同定法を開発した(ニュースリリース)。

ガス分析手法の一つである分光測定は,ガス分子が固有の波長の光を吸収する性質を利用する。複数の分子や複雑な構造の分子を含んだガスをリアルタイムで分析するためには,高い分解能と短時間での測定が必要だが,現在主に用いられているFT-IRではこれらを同時に実現することはできなかった。

産総研では,長さの国家標準や,国際的な次世代の時間標準の候補である光時計の開発に貢献するために,レーザの周波数を精密に測ったり制御したりするための「光コム」の研究開発を進め,周波数雑音の極めて小さい世界最高水準の「光コム」を開発してきた。

一方,「光コム」を2台使うデュアルコム分光装置は,従来のFT-IRを超える分解能と周波数(波長)精度で,ガス分子の吸収を短時間で測定できるため,ガスの種類を高速で高精度に検出・同定できる。そこで,産総研の高性能な「光コム」をデュアルコム分光装置に適用し,データ処理法を工夫して,高速にガスを検出・同定する技術を開発した。

開発した技術は,高い分解能と精度に加えて,デュアルコム分光装置として最大の測定波長帯域を実現した。水,アセチレン,メタンの3種類のガスからなる試料について,波長1.0μmから1.9μm(波数5100から10000cm-1)にわたる超広帯域分光測定したところ,試料中の3種類のガス分子による吸収を同時に測定できた。

この帯域は,これまでのデュアルコム分光装置の中で最も広帯域であった波数5900から7300cm-1の3倍以上広く,分解能は0.0016cm-1と一般的なFT-IRの0.1cm-1よりはるかに高い。しかも,測定1回あたりにかかる時間はわずか13/100秒である。そのため,メタン,アンモニア,フッ化水素,塩化水素,アセチレン,水など,FT-IRでは難しかった複数のガス分子の同時検出が可能になる。

回開発したデュアルコム分光装置により測定した波長1.5 μm帯におけるアセチレンガス分子の吸収スペクトルと,分子の吸収スペクトルデータベース(HITRAN)の値は非常によく一致した。また,この装置は,FT-IRでは難しかった同位体分析にも活用できる。

今回開発したデュアルコム分光装置は,使用目的に合わせて波長帯域,感度,測定時間などを最適化できるため,環境ガスの分析,内燃機関の評価,呼気分析など,環境,エネルギー,医療といった分野での幅広い応用が期待できる。

産総研は今後,装置の小型化のほか,データ取得・解析プログラムの改良を進め,実験室だけでなくフィールドでの使用を想定した開発を行なうという。また,微量な環境ガスの検出,プラズマの温度測定など,さまざまな試料に対して最適化した分光測定を行なうとしている。

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