名古屋大学,JST戦略的創造研究推進事業ERATO伊丹 分子ナノカーボンプロジェクト,米国エモリー大学は,エステル化合物と有機ホウ素化合物(有機ボロン酸)を切ってつなげる新反応の開発に成功した(ニュースリリース)。
鈴木—宮浦カップリング反応は,最も信頼性の高い合成化学手法として医農薬や有機エレクトロニクス材料,液晶材料の合成に用いられている。一方,有機ハロゲン化物の使用により反応後に環境へ悪影響を与える金属ハロゲン化物を排出してしまう「ハロゲン問題」を解決する代替カップリング剤の開発や,安価かつ高活性な新触媒の開発などが行なわれている。
今回,研究チームは有機ハロゲン化物の代替カップリング剤として入手容易で安定な「エステル化合物」に着目し,これを有機ホウ素化合物と連結させる反応の開発に挑戦した。
エステル化合物は,有機ハロゲン化物を用いる場合と比較し,ハロゲン化物由来の廃棄物を排出せす,カルボン酸誘導体として極めて多種類のものが市販品として手に入る。
さらに,エステル基は古くから用いられるヘテロ環合成法でヘテロ芳香環を合成する場合に必要な官能基であり,それらを直接用いて結合をつくることが可能となれば合成工程の短縮にも繋かる。しかしながら,エステルは安定な官能基であり,これをカップリング剤として用いることはほとんどできなかった。
反応条件を種々検討したところ,非常に安価な触媒(酢酸ニッケル,トリブチルホスフィン,炭酸ナトリウム)を用いることでエステル基が脱離基となり種々の有機ボロン酸と反応することを見出した。
この方法は従来法と比較して,多様に存在するカルボン酸誘導体(エステル)をそのまま脱離基として使えることが最大の特長。また,安価なニッケル錯体を触媒に用いることも大きな魅力であり,触媒前駆体の酢酸ニッケルは,鈴木—宮浦カップリングの触媒前駆体として頻繁に用いられる酢酸パラジウムより300倍も安価。
さらにこの反応は,幅広い基質一般性を示すとともに,複雑な構造をもつ医薬品にも適用できる。この反応は,特にヘテロ芳香環エステル化合物のカップリングに威力を発揮し,ハロゲン化物を用いたカップリングでは,多段階を要する,もしくは合成困難な化合物の合成が容易になった,極めて高い合成的実用性を有している。また,反応はグラムスケールでも問題なく進行することから反応のスケールアップも可能だとしている。
今回の知見は,今後カルボ ン酸誘導体を鈴木—宮浦カップリング型のみでなく様々なクロスカップリング反応の代替カップリング剤として活用できる可能性を示している。クロスカップリング反応は現在のファインケミカルを生み出す化学工業の必須合成技術であり,研究グループでは開発した反応が,医農薬や有機エレクトロニクス材料の安価かつ新しい工業的プロセスの開発につながると期待している。
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