沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは, ペロブスカイト太陽電池の最上層にできてしまうピンホールの除去に成功した(ニュースリリース)。さらに太陽電池の顕著な長寿命化,薄型化も達成した。
このピンホールは「ホール輸送層」と呼ばれる太陽電池の最上層にみられ,ペロブスカイト太陽電池が早く劣化してしまう主要因であることがわかっている。ペロブスカイトは有機‐無機ハイブリッド型の人工材料で,その太陽電池はシリコン系太陽電池に代わるものとして期待され。世界中で盛んに研究が行なわれている。
ペロブスカイト材料は太陽光をエネルギーに変換する活性層に用いられる。ピンホールは,このペロブスカイト材料にダメージを与える湿気や酸素の通り道となる。ホール輸送層のピンホールがなければ,ペロブスカイトを保護し太陽電池の寿命を延ばすことが可能となる。
今回,研究グループは太陽電池の最上層の作製方法を工夫することで,ピンホールを除去した。具体的には,最上層の材料であるspiro-OMeTADの粉を溶かした溶液をペロブスカイト上にスピンコートするかわりに,真空蒸着法によりspiro-OMeTADの粉を昇華させ,分子の形で太陽電池上に堆積させた。真空蒸着法は,堆積速度の制御,層の厚みの制御をより精密に行なうことができるため,200nm以上あった太陽電池の厚みを70nmまで薄くすることができた。
さらに,層の伝導性を高める成分を添加するタイミングや方法も正確に制御できるようになった。その結果,正電荷を持ち経路内を移動する「正孔」の流れがスムーズになった。研究グループは,最上層とペロブスカイト層の間の差を最小限にすることが,エネルギー効率の向上につながると考えられるとしている。
太陽電池の耐久性も大きく向上した。以前は,2,3日もすると太陽光を電気に効率的に変換する能力が失われていたが,この蒸着法をとることにより,光電変換効率を35日以上もの間高く維持することができるようになったという。
従来のシリコン系太陽電池よりは低コストであるものの,蒸着法でペロブスカイト太陽電池を作製すると,スピンコート法よりもコストがかかる。現在,研究グループはどのように費用対効果のバランスをとるか探っており,溶液処理法を用いてコストを抑えつつピンホールの形成を避ける手法の確立を目指している。
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