情報通信研究機構(NICT)と東北大学の共同研究グループは,広い波長可変範囲を持つ超小型の波長可変レーザの実現に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
現在の光通信では1.53~1.57 µmの狭い波長範囲で80波長程度を用いているため,これ以上の多波長化は困難になっている。より広い波長帯を利用するために量子ドット技術を用いた光通信用デバイスの研究が進められている。量子ドットを用いたレーザは,従来の半導体レーザと比べて様々な長所を持っており,これを利用することで既存のシステムの限界を超える新しい光通信システムを構築する光源となることが期待されている。
さらに,アクセス系やデータセンタ,一般家庭などの中・短距離の範囲でこのような高機能光デバイスを利用できるようになれば,社会全体の情報通信の高度化にもつながるため,光デバイスの小型化・低消費電力化が求められている。
これまでに東北大学の研究グループでは,シリコンとその製造プロセスを利用する事で,非常に小型で高機能な光デバイスを低コストに実現することが可能となるシリコンフォトニクス技術の研究開発を進めてきた。一方でNICTでは,独自に開発した高密度・高品質自己形成量子ドット作製技術を応用する事で,従来の光通信技術で用いられてきた波長である1.55 µm帯よりも短い波長1.0 µm~1.3 µmにおいて動作する広帯域光デバイスの開発を進めてきた。
今回の研究では,シリコンフォトニクスと量子ドット技術という二種類のナノテクノロジーを効果的に融合し,それぞれの長所を生かすことで従来にない超小型でありながら広い波長範囲で使用できる波長可変レーザの開発に成功した。それぞれの技術は製造方法や材質が異なるために,従来は一体化が困難だったが,両者を効率よく結合する技術の開発によって世界で初めて波長可変動作が可能になった。
シリコンフォトニクス技術を用いて作製したシリコンフォトニクスチップは,幅400 nm×高さ220 nmの非常に微細な光の通り路(シリコン細線光導波路)によって構成された二つのリング共振器によって特定の波長のみが選択される波長フィルタの役目をはたしており,チップ上に形成したマイクロヒーターによって選択波長を自由に制御することが可能。
この波長可変フィルタチップと量子ドット光増幅チップとを結合させたものがヘテロジニアス(異種材料集積)波長可変レーザ。このようにして開発した波長可変レーザは,従来の量子ドット波長可変レーザでは数cm角程度の大きさが必要だったのに対して3mm×1mm程度と非常に小型であり1.200~1.244 µmの波長範囲で良好な波長可変動作を示した。このように面積にして数百分の一以上の小型化が達成され,消費電力や応答速度も大幅に低減された。
今回の研究によって開発したヘテロジニアス-シリコン/量子ドット超小型波長可変レーザの波長範囲をさらに広げていく事で,光通信システムの更なる大容量化が可能になる。このレーザは超小型・低消費電力でありながら光通信の情報量を飛躍的に増大させる可能性を持っており,今後のビッグデータの利活用などによって急激に増加する情報通信を根底で支えるキーデバイスとなることが期待されるとしている。
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