東大,1分子イメージングにより複合体の生成過程を観察

東京大学の研究チームは,ショウジョウバエを用いてRISCの形成に必要なタンパク質7種類をすべて突き止め,RISCを試験管内でつくりだすことに成功した。さらに,1分子イメージング技術を用いて,RISCがつくられる過程を分子1個のレベルで観察することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

RNAiとは,小さなRNAが標的とするメッセンジャーRNAの切断を引き起こし,特定のタンパク質の合成を抑える生命現象。RNAiは,人工的に合成した小さなRNAやその前駆体を外部から細胞へ導入することで引き起こすことができるため,遺伝子のはたらきを調べる方法として生物学実験に幅広く利用されている。

RNAiは,小さなRNA1本鎖とアルゴノートと呼ばれるタンパク質からなる複合体RISCが,細胞内でつくられることで引き起こされる。これまでの研究からRISCがつくられる過程は,アルゴノートにRNA2本鎖が取り込まれる段階と,取り込まれた2本鎖のうち片方のRNA鎖がアルゴノートから捨てられる段階の2つに分けられること,そしてRNA2本鎖が取り込まれる段階には分子シャペロンが必要となることが明らかにされてきた。

しかしRISCがつくられる過程について,これ以上詳しく調べる方法はなく,どのようにRNA2本鎖が取り込まれるのか,また分子シャペロンがどの過程に必要となるのかは,謎に包まれていた。

今回研究チームは,モデル生物であるショウジョウバエを用いて,RISCの形成に必要な7種類のタンパク質をすべて突き止めた。そして,これらのタンパク質を混ぜ合わせることで,RISCを試験管内で再構成できることを示した。

さらに,アルゴノートに取り込まれる小さなRNA2本鎖に蛍光分子で目印をつけ,1分子イメージング技術を用いることで,RISCがつくられる過程を分子1個のレベルでリアルタイム観察することに,世界で初めて成功した。その結果,これまではとらえることができなかったRISCがつくられる詳細な過程を分子レベルで明らかにした。

1分子イメージングは,まず石英プリズムの下にスライドガラスを設置してレーザ光を入射する。入射したレーザ光は石英プリズムで全反射し,抜けていく。この時に生じる微弱な光を用いて,スライドガラス上でRISCがつくられる過程を捉える。

研究チームは今回の成果について,RISCがつくられるしくみを解明し,RNAiに秘められた大きな謎に迫る画期的なものだとしている。さらに波及効果として,現在進められているRNAiを利用した次世代医薬品の開発など,RNAiのさらなる応用を加速することが期待されるという。

関連記事「名大,アルツハイマー病関連分子の脳内分布を3次元イメージングすることに成功」「東大ら,タンパク質断片の1分子内部動態を高速X線回折像からリアルタイム動画撮影に成功