理研ら,微小で薄いタンパク質結晶の電子線構造解析に成功

理化学研究所(理研)と東京大学の共同研究グループは,微小で薄いタンパク質の三次元結晶から電子線による結晶構造解析を実現する新技術を開発した(ニュースリリース)。この技術を,膜タンパク質などの薄い結晶に適用して,アミノ酸やイオンの荷電状態の可視化に成功した。

タンパク質の機能を明らかにするためには,立体構造を決める原子配置を解明することが非常に重要となる。現在は,タンパク質の結晶を作成し,「SPring-8」などの放射光施設でX線回折測定を行なうことが,構造決定の一般的な手順になっている。

しかし,構造が複雑な膜タンパク質や生体超分子複合体の結晶作成は難しいことが多く,微小な結晶やごく薄い三次元結晶しか得られないこともしばしばある。これらの結晶は,X線回折測定には小さく薄すぎて使用できなかった。一方,電子線はX線に比べて10万倍も強く試料に散乱される。そのため,結晶性が良ければ,微小で薄い結晶からでも高い空間分解能で回折点を観測できることがある。

研究グループは,微小で薄い三次元の結晶から構造決定を行なう電子線結晶構造解析の技術を開発し,X線が利用できなかった膜タンパク質などの薄い結晶の構造解析に成功した。電子線は負の電荷を持つため,同じ原子でも,電荷を持ったものと中性のもので散乱のされ方は大きく異なる。

電子線結晶構造解析では,この電荷分布の情報を含む分子の三次元静電ポテンシャルマップが得られる。タンパク質などの生体分子が機能を発揮する上で,アミノ酸や金属イオンの電荷状態は大きな影響を及ぼすため,荷電情報は非常に重要だが,X線回折からは取得することができない。

この研究により,負電荷を持つ酸性アミノ酸の側鎖ではその密度が減少すること,膜貫通部位にある酸性アミノ酸にプロトン(水素イオン)が付加していること,さらに酵素活性部位の荷電状態などを明らかにした。

研究グループは,この技術を荷電状態の可視化の汎用的な手法として確立できれば,生体分子のより詳細な作動メカニズムの解明につながり,生命科学の発展,新たな治療法や薬の開発,工学への応用などへの寄与が期待できるとしている。

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