分子研ら,光でオン・オフできる超伝導スイッチを開発

自然科学研究機構分子科学研究所,理化学研究所らの研究グループは、光に応答する有機分子を組み込んだ電界効果トランジスタを作製することで,光の照射によってオン・オフが可能な超伝導スイッチを世界で初めて開発した(ニュースリリース)。

電界効果トランジスタとは,ゲートと呼ばれる電極への電圧入力により回路に流れる電流の大きさを制御するスイッチング素子であり,電子機器の基盤技術として用いられている。近年では,より省電力かつ高速に情報を処理できるとされる量子コンピュータなどの実現へ向けて,電気抵抗がゼロである超伝導状態へのスイッチングが可能な超伝導トランジスタの開発が盛んに行なわれている。

研究グループはこれまでに,κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br(以下,κ-Br)という有機物質を用いて電界効果トランジスタの開発を進めてきた。2013年には,有機物では世界で初となる超伝導トランジスタの開発に成功しており,柔らかさや軽さなどの元来の利点もあり,これまで超伝導トランジスタには不利とされていた有機物の可能性が見直されつつあった。

今回の実験では,このκ-Brを用いた超伝導トランジスタのゲート電極部分を,スピロピランと呼ばれる光に応答して電気的に分極する有機分子からなる薄膜に置き換えた構造を持つ,新たな光駆動型トランジスタを作製した。

これまでの電界効果トランジスタでは,外部電源を用いてゲート電極へ電圧を印加し,物質に電荷を蓄積させることで電気抵抗を制御していたが,今回開発したトランジスタは,紫外光の照射によって有機薄膜を分極させることで物質に電荷を蓄積させ,また一方で,可視光の照射によって分極を消去して電荷を取り除くことが出来る仕組みになっている。

この成果は,「光で超伝導をスイッチする」という新しいデバイスの概念を提示しており,光で遠隔操作が可能な高速スイッチング素子や,超高感度光センサなど,既存のシステムの改良に留まらない新しいイノベーションに繋がることが期待されるもの。

更に研究グループは,今回用いた手法が,κ-Brに限らず,原理的には電界効果トランジスタに用いられている多くの物質に拡張して適用することが可能であると考えている。従って,超伝導の利用に限らない,様々な光駆動型相転移デバイスの開発につながる基盤技術になることも期待されるとしている。

関連記事「産総研,電界効果トランジスタの10万倍の寿命を持つトンネルトランジスタを開発」「東大,超低消費電力トンネル電界効果トランジスタを開発」「岡山大,世界最高レベルの電界効果移動度を有する有機薄膜トランジスタを開発