筑波大学は,層状岩塩型酸化物 NaMO2(M=Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni)の電池起電圧をイオンモデルによって説明することに成功した(ニュースリリース)。特にM=Mn-Niでは充電時に酸素イオンから電子を引き抜かれるため,電圧が遷移金属(M)に依存しないことがわかった。
このモデルは,第一原理計算や大規模シミュレーションを必要としない簡単な計算で電位を予測できる。そのため,二次電池の電位に対する直感的な理解が可能であり,電池材料開発を迅速化する。
ナトリウムイオン二次電池は、豊富で安価な元素であるナトリウムを用いることから,ポスト・リチウム二次電池として,特に,再生可能エネルギーを蓄える大規模蓄電池への応用が期待されている。典型的なナトリウムイオン電池正極材NaFeO2の電位は3.3Vであり,すでに実用化されているLiCoO2にくらべて約0.6V低く,電位のさらなる増大が望まれている。しかし,電位を高めるための材料設計に関する明確な指針はこれまでなかった。
従来,電池材料の電位は遷移金属で決まると考えられており,遷移金属の原子番号とともに電位が増加すると期待されていたが,NaMO2ではM=Mn,Fe,Co,Niではこの傾向が見られていなかった。
一方,イオンモデルは超伝導や強磁性を示す強相関物質の分野で利用されてきた考え方だが,二次電池等のエネルギー材料への応用はなされていなかった。この理由は,二次電池の分野では化学的な酸化還元といった考え方が主流であり,固体物理的な考察が成されてこなかったため。
この研究では,イオンモデルを二次電池の電位予測に応用しました。その結果,M=Mn-Niでは充電時に電位を生成する電子が,遷移金属ではなく,酸素イオンから引き抜かれており,電位が遷移金属の種類に依存しないことがわかった。
また,材料の体積が電位に及ぼす影響を突き止め,遷移金属の一部を他のイオンに置換して体積を変えることにより,さらに電位を高めることが可能であることがわかった。研究グループは今後,得られた結果から物質設計を行ない,高い電圧を有する正極材料の開発を行なっていくとしている。
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