東京工業大学の研究グループは,液体アンモニアを溶媒とする低温合成法(アンモノサーマル法)により,鉄系超伝導体の一つである鉄セレン化合物(FeSe:Tc=8K,Kは絶対温度)にナトリウム(Na)とアンモニア(NH3)を層間挿入してTc=37Kから45Kの新しい超伝導体を発見し,その組成,構造を決定した(ニュースリリース)。
この研究では,液体アンモニア中に溶解する金属ナトリウムや鉄カルコゲナイドの割合を変えることで,Tcの異なる3つの超伝導物質(2つは新物質)を合成し,その化学組成と結晶構造を決定した。
Na0.65Fe1.93Se2という組成のTc=37Kの物質(Phase I)は,FeSeの層間にNaイオンだけが挿入されたもの。この物質はこれまでの高温での固相反応法では合成できず,今回の手法によって初めて得ることができた。また,鉄の欠損が極めて少ないことも大きな特徴。
また,ナトリウムイオンと一緒にアンモニア分子が層間に挿入された物質も合成し,アンモニア量が少ない物質(Phase II)でTc=45K,多い物質(Phase III)でTc=42Kで超伝導が出現した。
また,銅酸化物系超伝導体で見られた層間距離とTcとの関係が,今回発見した物質系には見られないことを突き止めた。これは新たな超伝導物質探索指針につながる知見と言えるもの。
FeSe系は特殊な薄膜系において100Kを超えるTcが報告されるなど,注目を集めている素材であり,バルク材料(かたまり)でも高いTcが得られることが期待される。この物質系は通常の高温焼成法で作ることができず,研究グループでは,今回用いたアンモノサーマル法は超伝導体合成法としても有効な手段になっていくとしている。
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