北大,超高速で変色するゲルによる新たなカラーディスプレイを提案

北海道大学の研究グループは,力学刺激によって超高速で色が変わるゲルを開発した(ニュースリリース)。バックライト不要の新方式のカラーディスプレイ,水中でも使える高速応答圧力センサなどとして利用可能と考えられるという。

このゲルは,変形の大きさに応じて赤~青までのフルカラーレンジ発色が可能,1ミリ秒という極めて速い応答速度,0.01mm(髪の毛のサイズ)の空間分解能などの特徴を有している。また1万回を超す変形を繰り返し加えても,変形に対する構造色の変化は一切劣化が見られなかった。

合成は,脂質二分子層を形成する界面活性剤分子としてポリドデシルグリセリルイタコネート(PDGI),ラメラ層の間を埋めて形状を保持するゲル層としてポリアクリルアミド(PAAm)を主成分とした化学架橋ゲルをラジカル重合により行なった。

二分子層とPAAm 層は,ゲル内部で交互に積層した周期構造を取る。このPDGI/PAAm ゲルを合成後,50℃の水酸化ナトリウム水溶液に数分間ゲルを浸すことにより,PAAm を一部加水分解しポリアクリル酸ナトリウム(PAAcNa)に改変した。

その後,純水で洗浄及び保存を行なった。ここで,イオンを帯びているPAAcNa は高い浸透圧(吸水力)を生み出すため,ゲルはさらに吸水し,大きく膨らむ。この過程で二分子層は引き伸ばされて細かく壊され,ミクロサイズに分割される。

このゲルに色素は一切含まれておらず,代わりに細胞膜のような脂質二分子膜が100nm 程度の間隔で規則的にゲルの中に積層している。この周期的な膜構造が反射板として機能し,特定の波長の光だけが強く反射されるため,膜の周期に対応した,玉虫や熱帯魚の表のような構造色が現れる。

ゲルは非常に柔らかい材料なので,変形させると膜の周期が変わり,従ってゲルの色も変わる。同様の仕組みで色が変わるゲルは従来もあったが,変形させた後,ゲルが元の形及び色を回復するためには15 分程度の長い時間を必要とし,ディスプレイなど動画を表示する用途には不向きだった。

今回,ゲル中の脂質二分子膜を細かく分割することにより,応答速度を100 万倍と大幅に向上,ハイエンド液晶ディスプレイと同程度の超高速応答を実現した。また最大3kPa(=30gf/cm2)という極小さい圧力で,赤~橙~緑~青という,フルカラーレンジの変化を実現することが出来た。色の空間分解能は0.01mm であり,これはハイエンドディスプレイのドットピッチ0.1mm を凌駕する値。

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