海洋研究開発機構(JAMSTEC)らの国際研究チームは,大気汚染ガスである二酸化窒素(NO2)の衛星観測に3~5割の過小評価があり,その原因の一つが,大気中に共存する微小粒子PM2.5などのエアロゾルが,衛星観測のプローブ光である太陽光の経路を撹乱し,地表付近のNO2を観測されないように覆い隠してしまう「シールド効果」である可能性を,日本・中国・韓国・ロシアでの地上観測網(MAX-DOAS)データを用いた衛星データの検証結果から見出した(ニュースリリース)。
NO2の衛星観測では,衛星に取り付けられた観測センサを用いて地表から反射される太陽光の紫外・可視領域の光を分光し,NO2分子に固有の吸収度を計測することにより,地表から対流圏上端までの大気中のNO2累積濃度(対流圏NO2カラム濃度)を測定している。
しかしながら,衛星から遠く離れた地上付近に存在するNO2による微弱な吸収(1%以下)を,雲や成層圏を通して,光の経路も考慮しながら精度よく計測することは非常に難しいため,成層圏にも存在するNO2分の適切な差し引きや,雲が部分的にあるときの影響など,衛星からの観測にはさまざまな不確かさが伴う可能性が高く,信頼性の高い発生量の評価を困難にしてきたことから,検証観測の実施が望まれていた。
研究グループは,地上からのリモートセンシングを行ない,NASAの衛星Auraに搭載されたセンサからのNO2観測を検証した。衛星観測の場合とは反対向きに,地上に分光器を設置し,空の天頂方向から水平線近くまで,多方向から届く光に含まれる吸収度を総合解析してNO2の量を導き出した。その際,光の通ってきた経路の情報を元に,同時に存在するエアロゾルの存在量に関する情報も合わせて取得できる。
このような地上観測では,衛星観測の場合と比べて,エアロゾルの影響や,NO2の高度分布などを正確に把握することが可能となり,より多くの情報量を加味して「対流圏NO2カラム濃度」をより高い精度で決定することができる。
検証の結果,衛星データのほうが地上観測値と比べてNO2の量が3~5割低いことを見出した。その差が大きくなるのは,(1)大気中に共存するエアロゾル量(具体的には光学的厚さ)が大きいときや,(2)NO2が高度1kmまでの地上付近に偏って分布しているときであることを見出した。
また,NO2よりもエアロゾルがより上空まで拡散しているときに,衛星観測でプローブ光として用いる太陽の光が地表付近まで届かないことから,衛星観測が地表付近のNO2を見落としてしまう効果,言い換えれば,エアロゾルが地表付近のNO2を観測されないように覆い隠してしまう,いわば「シールド効果」が起きる可能性が予測されていたが,このことを裏付ける観測結果が初めて得られた。
今回の成果は,これまで衛星データに基づいて推計された窒素酸化物の発生量見積もりを上方修正する必要があることを意味しており,人間活動の地球環境への影響がこれまでの認識以上である可能性を示唆している。また,衛星観測からのNO2導出においては,これまでエアロゾルを雲の一種のように扱ってきたが,今後,エアロゾルの影響(光撹乱効果等)を適切に考慮する方法に改める必要があることが明らかになった。
関連記事「名大,PM2.5等の微粒子中に含まれる重金属成分を迅速にその場でレーザで測定する装置を開発」「シャープ,光センサを用いたPM2.5センサモジュールを開発」