京都大学の研究グループは,iPS細胞の樹立過程および分化能に,進化の過程でヒトゲノムに組み込まれた内在性レトロウイルス(HERV-H)が深く関与していることを明らかにした(ニュースリリース)。
初期化因子と呼ばれる遺伝子(OCT3/4,SOX2,KLF4,c-MYC)を過剰発現させることで,体細胞をiPS細胞へと初期化することができる。しかし,iPS細胞の中には他の細胞へ分化させようとしてもしない,分化能の低いもの(分化抵抗性iPS細胞)や,iPS細胞の多能性をうまく維持できないものもある。どうしてこのようなiPS細胞が生じるのか,その仕組みについてはよく分かっていなかった。
今回研究グループは,分化抵抗性iPS細胞で特異的に高発現しているHERV-Hの制御配列(LTR7)が,OCT3/4,SOX2,KLF4により初期化の過程で一過性に活性化されていることを見いだした。そして,初期化の早い時期にLTR7の働きを抑えるとiPS細胞の作製効率が著しく低下することが分かった。
また,LTR7の活性化によりHERV-Hの発現が上昇するが,その発現は,初期化が完了するとES細胞と同程度まで低下した。しかし,分化抵抗性iPS細胞ではLTR7が活性化されたままで,LTR7の働きを抑えることにより分化能を取りもどすことがわかった。
この研究により,ヒト体細胞を初期化し,分化能をもつ上で内在性レトロウイルスが一過性に強く活性化することが重要であることが示された。細胞の初期化技術に重要なメカニズムの一端を解明したことで,今後,高品質なiPS細胞作製の効率化につながるとしている。
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