東大,筋ジストロフィーの症状を再現したラットの作製に成功

東京大学の研究グループは,新規遺伝子改変技術であるCRISPR/Cas法を用いて,ジストロフィン遺伝子に変異をもつラット(ジストロフィン遺伝子変異ラット)の作製に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はX染色体上に存在するジストロフィン遺伝子の変異により引き起こされる遺伝性疾患で,新生男児約3500人に一人の割合で発症する。DMDでは筋組織の脆弱化の進行とともに筋力が低下し,運動不全や呼吸器機能低下,心不全といった重篤な症状を示す。

これまでDMDを患ったマウスやイヌ(DMDモデルマウス,DMDモデルイヌ)が主にDMDの治療法を開発する研究に用いられてきた。しかし,DMDモデルマウスは繁殖・維持が容易であるものの症状がヒトのDMDに比べて軽度である一方,DMDモデルイヌはヒトのDMDに類似した重篤な症状を示すものの,繁殖・維持に多大な労力を要することがそれぞれ課題となっていた。

ラットは繁殖・維持が容易であり,創薬開発の場でも特に薬効評価や毒性試験に多用されている。また,近年ラットにおいてさまざまな遺伝子改変技術が確立されたことにより,目的の遺伝子を欠損したラットを作製できるようになっている。

今回作製されたジストロフィン遺伝子変異ラットではジストロフィンタンパク質が消失しており,筋力低下とともに筋肉における筋線維の壊死,筋線維の再生像や横隔膜における変性像が確認できた。また,これまでDMDモデルマウスでは顕著でなかった心臓の変性も認められた。

これらの病態はいずれもヒトDMDに極めて類似したものであることから,ジストロフィン遺伝子変異ラットは,今後DMDの治療法を開発する上での研究に非常に有用なモデル動物となることが期待される。

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