産業技術総合研究所(産総研)は,情報通信研究機構(NICT)と共同で,110 GHzから170 GHz帯での高周波電力計校正用の国家計量標準器を開発した。NICTではこの国家計量標準器を用いた超高周波電力計を較正するシステムを開発,現在110 GHzまで行なっている高周波電力計の較正サービスの対象周波数範囲を,世界に先駆け170 GHzまで拡張する。
近年,周波数が100 GHzから数THzにわたる電磁波の応用が盛んになってきている。例えば,ミリ波帯車載レーダーなどの電波障害防止試験では,レーダー本体が使用する基本周波数は(60.5 GHz,76.5 GHzおよび79.5 GHz)であり,その2倍の周波数(121 GHz,153 GHzおよび159 GHz)で不要電波電力を測定する必要があるため,トレーサブルな高周波電力計の需要が高まってきている。
また,4K/8Kテレビ放送の実現に向け,120 GHz帯の電波を使用する4K/8K非圧縮映像の放送素材伝送システムの導入が求められているほか,まだ利用者が少ないテラヘルツ波領域を無線通信に利用する研究もなされているが,テラヘルツ波は大気に吸収されやすいこともあり,その利用とともに正確な測定方法に関する研究が遅れ「テラヘルツギャップ」と呼ばれている。
テラヘルツ波に関する最も基本的な測定量のうち,周波数については光周波数コムにより計量標準が開発されつつあるが,電力については各国とも開発が遅れており,測定の基準となる国家計量標準器の整備への要望が強くなってきている。
高周波電力を測定するには一般に高周波電力計が使用されているが,今回,こうした機器を校正する標準器のうち,110 GHzから170 GHzの周波数帯における高周波電力を4 %の精度で計測できる標準器を開発した。この標準器では,測定しようとする高周波電力を電磁波吸収体に吸収させていったん熱に変換し,この熱を等価な直流電力と比較する事で,高周波電力を最も精密に測定できる。
較正システムは,110 GHz~170 GHzの電波を発生させることができる信号発生器と,導波管を伝わる電波の一部を分離することができる方向性結合器から構成されており,較正によって「校正係数」と呼ばれる補正量が個々の電力計に対して与えられる。
「校正係数」は,電力計に表示される値と,電力計のセンサに入射した電力の値(本当に測りたい値)との関係を示すパラメータ(補正値)で,電力計に表示された値を校正係数で割ると,入射電力が決定できる。無線機からの出力(空中線電力)を測定する前に,電力計をあらかじめ較正しておけば,空中線電力を正確に測定できる。
今回の成果を用いて,NICTで無線通信機器向けの高周波電力計校正サービスを3月25日から開始するほか,産総研ではより高い周波数帯での応用技術開発に対応し,数年後に300 GHzを超える周波数帯までの国家計量標準を実現すべく研究開発を進める。