東京大学大学院理学系研究科教授の濡木 理氏および教授の菅裕明氏は、病原菌が抗生物質などの薬剤を排出する原因となる膜タンパク質輸送体MATEの高分解能立体構造を解明した。このタンパク質は原核生物から高等真核生物に至るまで存在しており、その機能を理解することは抗生物質の効果的な利用のために重要であると考えられている。これまで低分解能で解析されたMATEの構造についての報告はあったが,その詳細な機能の理解には至っていなかった。
今回,濡木氏の研究グループは,MATEのより高分解能の構造と輸送基質との複合体構造を解明した.その結果,膜貫通ヘリックスの一つが内側へと折れ曲がることで抗生物質の結合ポケットが失われ,細胞外に抗生物質が吐き出されることが示唆された.この膜貫通ヘリックスの動きこそが、これまで未解明であった抗生物質の排出機構の要であることが明らかになった。
また、菅氏の研究グループとの共同研究により、大腸菌において発現させたMATEの輸送活性を阻害する特殊ペプチドが発見され、さらにその特殊環状ペプチドとMATEの共結晶化にも成功、阻害様式も明らかになった。
今回の結果は、MATEの薬剤排出における新規の構造変化を明らかにすることで阻害剤設計の基礎となる情報を与えたばかりか、阻害剤開発の足がかりとなり得る化合物も発見されており、今後、院内感染等で問題を引き起こす多剤耐性菌の新規抗生物質の開発に寄与することも期待される。
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