1.はじめに
光周波数コムは,光周波数軸上で等間隔のスペクトル線を持つコヒーレントな光源であり,超精密分光,周波数標準,距離測定など多くの応用に使用されてきた。しかし,通信分野における実用化は,その大きなサイズ,高コスト,そしてスペクトル線の周波数間隔の狭さといった課題によって制約されていた。近年,微小光共振器を用いたチップ上での光周波数コム(マイクロコム)生成技術が開発され,これらの問題が解決されつつある。この技術により,低ノイズかつ安定したレーザ出力が得られるだけでなく,シリコンフォトニクスを用いた変調器と組み合わせることで,送信システムのチップスケールでの統合も可能となる。
今後の通信インフラにおいては,高速かつ大容量,多接続性に加え,低遅延,スケーラビリティ,そして超低電力消費が求められている。特にデータセンターやメトロネットワーク間を低遅延で接続するためには,大規模並列化されたプログラマブルなネットワークスライシング(NS)が不可欠である。1990年代には,ハイパーメディア光情報ネットワークのために,サイトごとに10,000 ~ 100,000 チャンネルを準備することが提案された。当時は遅延が問題視されなかったため,時分割多重やサブキャリア多重がNSの候補とされていた。しかし現在では,Gbps/chの速度で10,000 チャンネルの提供が求められるうえ,超低遅延が必要である。このため,波長分割多重を用いて物理的にNS(ハードスライス)を構成し,大規模並列化を実現する必要がある。NSに分割されたネットワーク構成の概念を図1に示す。ここで,大規模並列多波長光源としてのマイクロコムの利用が期待されている。各チャンネルは数10 Gb/s の伝送速度を持ち,これにより多数のチャネルを準備することで,大容量伝送を実現しつつ再構成可能性を確保できる。高集積性を備えたマイクロコムは,大容量かつ低コストである波長分割多重(WDM)通信システムに特に適している。
本稿では,ソリトンマイクロコムを光源として使用し,市中ファイバを用いた光伝送のデモンストレーション結果について報告する。また,同じシステムを用いて,低遅延が必須であるミッションクリティカルなロボット制御実験のデモンストレーション結果についても述べる。
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