1.背景
将来のスマート社会では,人間の生活に応じて生成される様々なデータが適時適所で計算処理される。このような将来のデジタルインフラ実現のためには,データ処理だけでなく,データの移動をも高効率・低消費電力で実現する必要がある。データを任意の宛先に送るためのパケットベースのルータやスイッチのLSIも,微細化による低消費電力化は限界となってきている。電気処理に偏重したインフラ構成ではエネルギー・環境制約を克服できない。データ移動におけるスループットに消費電力が依存しないという光の特徴を活かした光スイッチ・光パスネットワークの活用が重要となる。
データセンタ(DC)間接続への広帯域・高信頼・低遅延な光通信技術の適用に対する要請はすでに高く,システム構成からトランシーバ仕様にわたる幅広い議論が活発に進められている。2015年頃から,光伝送装置のオープン化やディスアグリゲーションの議論が高まっており,DC事業者主導で始まったOpen Compute Project の流れをテレコム領域に適用したTelecom Infra Project(TIP)や,米国キャリアが主導するOpenROADM MSAなどで,ホワイトボックス型パケットトランスポンダ装置や,ディスアグリゲーション型ROADM(ReconfigurableOptical Add/Drop Multiplexer)装置およびそのオープンな制御モデルなどがリリースされている。さらに,80 ~120 km程度のDC間接続をターゲットに,デジタルコヒーレントを採用したプラガブルトランシーバの標準化が急速に進んでいる。400 Gb/s のZR/ZR+トランシーバは既に量産が始まっており,OIFにて2020年から800 Gb/sのZRトランシーバの仕様が,2023 年からは1600 Gb/sの標準化議論が始まっている。計算資源のIOの高速化も急激に進んでおり,大規模データセンタのラック間接続にはシングルモードファイバの光接続が使われるとともに,GPU間・バックエンドネットワークにおける光スイッチによる接続再構成の効果が報告されている。
以上の技術潮流を背景に,「異種材料集積光エレクトロニクスを用いた高効率・高速処理分散コンピューティングシステム技術開発」においては,2030年以降のデジタルインフラを支えるトランシーバ技術として,10 pJ/bit 級の超低消費電力,10 Tb/s 級の超広帯域光トランシーバ技術の開発,および,これを高効率に光ネットワークにおいて使いこなすための多方路光エラスティックネットワーク技術の研究開発を推進している。本稿では,多方路エラスティック光ネットワーク技術の研究開発の概要,および,これを実現するための管理制御自動化技術を紹介する。
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