1.はじめに
世界的なデジタル化の進展に伴い,あらゆる情報を必要な場所,品質,タイミングでやり取り可能にする光ネットワークは,2030年に向けて一層重要な社会インフラになると考えられる。全世界のデータトラフィックはCAGR20%で伸長しており,合わせて5Gモバイル,IoTデバイス増加等で接続数はCAGR10%で増えている1)。今後は大規模データを分散処理する広域データセンタの進展,6Gに向けたアクセスネットワークの発展等,光ネットワークは長距離幹線,短~中距離の両方で一層大容量化が必要になると考えられる。一方,増え続けるコンピューティング需要に伴い,全世界でICTサービスが消費するエネルギーの増大が課題になっている。よって,大容量データ伝送を担う光ネットワークにおいても低消費電力化が強く求められている。光トランシーバは大容量光ネットワークの界面で電気信号と光信号を相互変換する装置であり,大容量化・低消費電力化の両面に大きく作用する技術である。現在中長距離光ネットワークでは100 ~ 400 Gb/sの伝送容量と,20 ~ 32 W程度の消費電力を持つ光トランシーバが導入されている。今後のデータトラフィック伸長を考慮すると,2030 年以降は25 倍の10 Tb/s 級への大容量化が必要と考えられる。一方で光トランシーバを収容する伝送装置の要件から,10 Tb/s級光トランシーバでは伝送容量あたりの消費電力(電力効率)を現行の1/5 である10 pJ/bit 以下に改善する必要があると考えられる。
コヒーレント方式は光信号の強度と位相の両方を変調してデータを送受信する方式であり,従来の直接変調-直接受信(IM-DD)方式と比較して,多重化による大容量化が可能である。また,本方式は高性能なデジタル信号処理(DSP)を活用してファイバ伝送路の波長分散などで生じた信号歪みを補償できるため,長距離伝送に適している。一方でコヒーレント方式の光トランシーバはIM-DD方式の光トランシーバと比較して内部構成が複雑であり,コストや消費電力面では課題があると考えられてきた。しかし,光トランシーバの高速・大容量化に伴いIM-DD方式が適用可能な距離が徐々に短くなっており,今後は短~中距離においてもコヒーレント方式の適用が広がると考えられている。そこで我々はコヒーレント方式の光トランシーバについて,10 Tb/s級の大容量化と10 pJ/bit 以下の低消費電力化を両立する手段を,光トランシーバのアーキテクチャ,それを実現する光電融合デバイスの両面から検討している。
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