1.はじめに:トポロジカルフォトニクスの興り
本誌の読者は,フォトニック結晶,メタマテリアル,メタサーフェスといった分野は,すでによく聞きなじみがおありかと思う。現在の視点から俯瞰して見ると,これらの分野は,固体物理とのアナロジーによって発展してきた,と言うことができる。フォトニック結晶は,固体電子系の結晶(絶縁体)を模倣することで,光版の絶縁体(フォトニックバンドギャップ)を実現するものであり,メタマテリアルも固体中の分極や磁化を人工的に設計することが根幹のアイデアにある。その後,メタマテリアルで培われたサブ波長構造アレイの知見からメタサーフェスが生まれ,現在では2 次元人工構造を広く指す言葉となっている。
2010年代から盛んになってきた「トポロジカルフォトニクス」と呼ばれる分野も, トポロジカル絶縁体(Topological insulators,以下TI)という固体物理分野とのアナロジーによって生まれた。TI は,2017 年にノーベル物理学賞の対象になったことで,名前を知っているという方も少なくないだろう。2008年に,その受賞者のひとりであるHaldane が,「光版の」TI(正確には光版の量子ホール系)を提案したことが,トポロジカルフォトニクスの始まりと言われている。その後,メタマテリアルやフォトニック結晶等を用いた光版のTI が提案・実証されたことで研究が大きく進展し,現在ではひとつの研究分野となった。光版のTI では,カイラリティと伝搬方向がロックした一方向性伝搬や,急峻な曲げにおける高透過現象などの特異な性質をもつ光導波路が実現できる。これにより従来の光回路に新たな機能性を付与できることから大きな注目を集めた。
本稿では,トポロジカルフォトニクスのメインテーマである光版のTI の基礎と応用について,我々の成果を交えて解説する。本稿の目標は,普段あまり物性物理になじみのない方に,トポロジカル絶縁体というものの雰囲気をお伝えし,それが光系にも応用できることを知っていただくことである。そこでまず,電子系のTI の概要を説明する。次に,SSHモデルと呼ばれるもっとも単純な1次元トポロジカル系を題材に,その光系への展開を紹介する。続いて,2 次元光TI で最も有名な,Wu-Hu型のトポロジカルフォトニック結晶について,その基本原理と応用を,我々が最近行った成果とともに紹介する。
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